
13歳以下でスマートフォンを所有すると、後に「自殺願望、攻撃性、幻覚」などを含む若年成人時の精神衛生状態の極端な悪化と結びつくことが10万人を対象にした研究で判明
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5歳でスマートフォンを手にした子どものその後のメンタル健康度はゼロに近い数字に
少し前に、「子どものデジタル依存は自殺念慮リスクの上昇につながる」というアメリカの研究論文を取り上げた記事をご紹介したことがありました。
そこには、
> スマートフォン依存症の若者は、同年代の若者に比べて自殺念慮のリスクが 2~ 3倍も高くなる。
などという数字もあり、なかなか深刻な状態を招く可能性があることは示されていたのですが、つい最近発表された研究は「 10万人の若者を対象にした」という、この手の研究では世界最大規模のもので、そこでは、
「年齢が低いうちにスマートフォンを手にするほど、その後の若年時代のメンタルヘルス状態が大幅に悪化する」
ことが数字で示されていました。
以下のようにあります。MHQスコアとは、総合的な心の健康スコアです。
スマートフォンを早期に所有したことに最も強く関連する具体的な症状としては、自殺願望、攻撃性、現実からの乖離、幻覚などがある。
13歳未満で初めてスマートフォンを手に入れた若者は、MHQスコアが低く、初めてスマートフォンを手に入れた年齢が若いほどスコアは徐々に低下した。
例えば、13歳でスマートフォンを手に入れた人たちの平均スコアは 30だったが、5歳でスマートフォンを手に入れた人たちではわずか 1にまで低下した。
このスコアは、100点満点ではなく、専門サイトによれば「上は 200 から下は -100まであるスコア」のようで、「マイナス」という評価もあるようですが、ともかく、5歳でスマートフォンを手に入れた人たちの心の健康度は、その後、圧倒的に低くなることがわかります。
それに加えて、比較的最近の記事で、
「 AI とスマートフォンは人類の知能を大幅に低下させ続けている」
という命題も最近はあります。以下の記事で取り上げました。
・AIとスマートフォンは「人類の知能」を大幅に低下させ続けている。そこから向かうイディオクラシーの未来
In Deep 2025年7月7日
これも、年齢が低ければ低いほど影響を受ける可能性があり、そして、今のスマートフォンには、標準で AI が搭載されている機種も多く(搭載されていなくとも AI へのアクセスは誰にでもできますが)、
「幼いうちから自分で考えなくなる」
というようなことにつながっていく可能性があると思っています。
上の記事にグラフを載せましたけれど、日本の場合、現実としては以下のように、「 13歳までには 90%以上の子どもが個人のスマートフォンを所有している」ということになっています。
これは、スマートフォンと関係しているかどうかはともかく、アメリカでは、過去 10年で、
「双極性障害の子どもの割合が 4,000%増加した」
ことが示されています。
・双極性障害の子どもの割合が「4,000%増加」している米国で拡大する小児への過剰な向精神薬の処方。もちろん日本でも
In Deep 2024年10月10日
上の記事にありますけれど、原因が何であろうと、子どもや若い人たちが、精神的な問題やメンタル疾患に陥ると、「次は薬物療法」が始まります。日本では、薬物療法以外のメンタル疾患治療は、現実的には(価格や診察時間の影響のために)ほとんど存在しません。
効果があるとかないとかを超えた部分で、「それはさらに若い人たちの精神衛生状態を悪くする」可能性があるのです(特に自殺念慮など)。
・10代と20代と30代の死因の第一位がすべて自殺だという日本の現実の中で、いろいろ考えてみる
In Deep 2025年6月5日
どこから見た側面でも、「まったく子どもと若者たちにはディストピアだなあ」と思わざるを得ない世の中ですが、今回ご紹介する論文から、最も気楽にできる「子どもの精神衛生状態をある程度守る」方法は明確で、それは、
「小学生などの子どもにスマートフォンを持たせない」
ということだけだと思います。
糸電話かオモチャのトランシーバーでも渡しとけばいいです。うちは糸電話でした(ホントかよ)。
研究をご紹介します。
世界的な研究で、スマートフォンの早期所有と若年成人の精神衛生状態の悪化が関連していることが判明
Global study links early smartphone ownership with poorer mental health in young adults
medicalxpress.com 2025/07/21
10万人以上の若者を対象とした世界的な調査によると、13歳未満でスマートフォンを所有することは、成人初期における精神的健康と幸福度の悪化につながるという。
7月21日「ヒューマン・デベロッピング・アンド・キャパビリティーズ (人間発達と能力)」誌に掲載された研究によると、12歳以下で初めてスマートフォンを手に入れた 18歳から 24歳の若者は、自殺願望、攻撃性、現実離れ、感情制御の悪さ、自尊心の低さを報告する傾向が高いことがわかった。
データはまた、幼少期のスマートフォン所有の影響が、早期のソーシャルメディアへのアクセスや、成人期におけるネットいじめ、睡眠障害、家族関係の悪化のリスク増加と大きく関連していることを示す証拠も示している。
世界最大の精神的健康に関するデータベースであるグローバル・マインド・プロジェクト(この研究のデータが集められた)を運営するサピエン・ラボ社の専門家チームは、将来の世代の精神的健康を守るために緊急の行動を起こすよう呼びかけている。
「私たちのデータは、幼いころのスマートフォン所有、そしてそれがしばしばもたらすソーシャルメディアへのアクセスが、成人初期における精神的健康と幸福の大きな変化に関係していることを示しています」と、サピエン・ラボ社の創設者で主任科学者でもある神経科学者のタラ・ティアガラジャン博士は述べている。
これらの相関関係は、ソーシャルメディアへのアクセス、ネットいじめ、睡眠障害、家族関係の悪化など、複数の要因によって媒介され、成人期にうつ病や不安といった従来の精神疾患の症状とは異なる症状を引き起こす可能性があるが、これらの症状は、標準的なスクリーニング検査を用いた研究では見逃される可能性がある。
攻撃性の増加、現実からの乖離、自殺念慮といったこれらの症状は、若い世代でその割合が増加するにつれて、重大な社会的影響を及ぼす可能性がある。
「これらの調査結果と、現在世界中で初めてスマートフォンを持つ人の年齢が 13歳を大きく下回っていることを踏まえ、政策立案者には、アルコールやタバコの規制と同様に、13歳未満のスマートフォンへのアクセスを制限し、デジタルリテラシー教育を義務付け、企業の説明責任を強化するなど、予防的なアプローチを採用するよう強く求めます」と、ティアガラジャン博士は語る。
2000年代初頭以来、スマートフォンは若者の繋がり方、学び方、そしてアイデンティティ形成のあり方を大きく変えてきた。
しかし、こうした機会の創出と同時に、AI 主導のソーシャルメディアのアルゴリズムが有害なコンテンツを増幅させ、社会的比較を助長するのではないかという懸念が高まっている。さらに、対面での交流や睡眠といった他の活動にも影響を与えている。
多くのソーシャルメディアプラットフォームはユーザーの最低年齢を 13歳に設定しているが、その運用に一貫性はない。一方で、初めてスマートフォンを購入する平均年齢は低下し続けており、多くの子どもたちが 1日に何時間もスマートフォンを使用している。
少なくとも現時点では、学校でのスマートフォン使用禁止については国際的に賛否両論がある。近年、フランス、オランダ、イタリア、ニュージーランドなど、いくつかの国が学校でのスマートフォン使用を禁止または制限しているが、こうした動きの効果は限定的だ。
しかしながら、オランダ政府の委託を受けた調査では、学校でのスマートフォンの使用を禁止した学校では、生徒の集中力が向上したことが明らかになっている。
今月、ニューヨーク州の政策立案者は、学校でのスマートフォンの使用を禁止する米国最大の州となると発表した。
これにより、学校に少なくともスマートフォンへのアクセスを制限する方針を義務付ける法案が可決されたアラバマ州、アーカンソー州、ネブラスカ州、ノースダコタ州、オクラホマ州、ウェストバージニア州などの州に加わることになる。
スクリーンタイム、ソーシャルメディア、スマートフォンへのアクセスと様々なメンタルヘルスへの影響に関するこれまでの研究は、全体としてマイナスの影響を示しているものの、結果が複雑で矛盾していることもしばしば示しており、政策立案者、学校、家族にとって問題への対応を困難にしている。
今回の新たな分析では、サピエン社のチームが自社のグローバル・マインド・プロジェクトからデータを抽出し、社会的、感情的、認知的、身体的な健康状態を測定する自己評価ツールであるマインド・ヘルス・クォティエント(MHQ)を使用して、総合的なメンタルヘルス・スコアを生成した。
その結果は次のようになった。
・スマートフォンを早期に所有したことに最も強く関連する具体的な症状としては、自殺願望、攻撃性、現実からの乖離、幻覚などがある。
・13歳未満で初めてスマートフォンを手に入れた若者は、MHQスコアが低く、初めてスマートフォンを手に入れた年齢が若いほどスコアは徐々に低下した。例えば、13歳でスマートフォンを手に入れた人たちの平均スコアは 30だったが、5歳でスマートフォンを手に入れた人たちではわずか 1にまで低下した。
・それに応じて、苦痛または困難を抱えていると判断された人の割合(重篤な症状が 5つ以上あることを示すスコア)は、女性で 9.5%、男性で 7%増加した。この傾向はすべての地域、文化、言語で一貫しており、脆弱性が高まる重要な時期であることを示している。
・所有権の若年化は、女性の場合、自己イメージ、自尊心、自信、感情的回復力の低下と関連しており、男性の場合、安定性、落ち着き、自尊心、共感力の低下と関連している。
さらに分析を進めると、幼少期のソーシャルメディアへのアクセスが、幼少期のスマートフォン所有とその後のスマートフォン所有の関連の約 40%を説明することが示され、家族関係の悪さ(13%)、ネットいじめ(10%)、睡眠障害(12%)も下流で重要な役割を果たしている。
研究者たちは、COVID-19 パンデミックによってこうしたパターンが拡大した可能性があることを認めているが、世界のすべての地域でこうした傾向が一貫していることは、早期のスマートフォンへのアクセスが発達に幅広い影響を与えていることを示唆している。
現時点では、スマートフォンの早期所有とその後の幸福との直接的な因果関係を証明する証拠はないが、これは本論文の限界でもあり、著者たちは、潜在的な危害の規模は無視できないほど大きく、予防的対応が正当化されると主張している。
彼らは、政策立案者が取り組むべき以下の 4つの主要分野を推奨する。
・デジタルリテラシーとメンタルヘルスに関する義務教育の要件。
・ソーシャルメディアの年齢違反の積極的な特定を強化し、テクノロジー企業にとって意味のある結果を確実にする。
・ソーシャルメディアプラットフォームへのアクセスを制限する。
・スマートフォンへの段階的なアクセス制限を実装する。
「これらの政策提言は全体として、重要な発達の時期に保護することを目的としています」とティアガラジャン博士は述べている。博士の研究分野は環境が脳と心に与える影響に焦点を当てており、人間の心と人間のシステムの生産的進化を理解し、可能にすることに関心を持っている。
最後に博士は、「私たちが示した証拠は、子どもの頃にスマートフォンを所有することが、AI を活用したデジタル環境への早期の入り口となり、成人後の精神的健康と幸福を著しく損なわせ、個人の主体性と社会の繁栄に深刻な影響を及ぼしていることを示唆しています」と述べる。
「最初は、この研究結果の強さに驚きましたが、しかし、よく考えてみると、発達段階にある若い世代の精神は、その脆弱性と社会経験の不足を考えると、オンライン環境の影響をより強く受けやすいことが分かります」