(1)ヘブル語名「シェムーエール」-「サムエル(その名は神)」(1:20)。
最後の士師(サムエル上7:15)、また預言者であるサムエルにちなんで付けられました。
もともと一巻の書であったようだが、15世紀からギリシャ語訳のように二冊に分けられるようになりました。
(2)ギリシャ語七十人訳とラテン語訳では、二巻に分けられ、次の列王記二 巻と合わせて「諸王国」とされた。サムエル記、列王記等はもともと一巻でしたが、ギリシャ語訳の方が長くなるので、標準的巻物の長さの都合により二巻に分けられました。それゆえ、「第一・第二」ではなく、「上・下」とするのがふさわしい。
ヨシュア記、士師記、サムエル記はそれぞれ統一王国時代、分裂王国時代にまとめられ、これらの書物は王国時代の歴史書として編纂されました。ヨシュア記では、カナン征服が一度に実現したが、未取得地があることも記されている。士師記はイスラエルの課題が多く残り、王国の必要性が示される。サムエル記は王国の形成と統一の過程が記され、主が王であるが王制も認められたことが示されています。王国の永続性が預言されています。
アウトラインは以下のようになります。
I サムエル(上1章1節~7章1節)
1 エリとサムエル(1:1~3:21)
(1)サムエルの誕生(1:1~20)
(2)サムエルの献身とハンナの祈り(I:21~2:11)
(3)サムエルの召命(2:12~3:21)
2 神の箱をめぐる物語(4:1~7:1)
(1)奪われた神の箱(4;1~5:12)
(2)神の箱の帰還(6:1~7:1)
Ⅱサムエルとサウル(上7章2節~1,5章35節)
1 ペリシテ鎮圧とサムエルの統治(7:2~17)
2 王を要求する民(8:1~22)
3 サウル王即位(9:1~11:15)
(1)サウルヘの油注ぎ(9:1~10:16)
(2)サウル王の選出(10:16~27)
(3)サウルの勝利と即位(11:1~15)
4 サムエルの告別説教(12:1~25)
5 サウル王の罪(13:1~15:35)
(1)ペリシテ人との戦い(13:1~23)
(2)サウルとヨナタン(14:1~52)・
(3)アマレク人との戦い(15:1~35)
Ⅲ サウルとダビデ(上16章1節~下1章27節)
l ダビデヘの油注ぎ(16:1~13)
2 サウル王に仕えるダビデ(16:14~17:58)
(1)サウル王に仕えるダビデ(16:14~23)
(2)ダビデとゴリアト(17:1~58)
3 ダビデに対するサウルの敵意(18:1~19:24)
(1)サウル王の嫉妬(18:1~16)
(2)ダビデとミカルの結婚(18:17~30)
(3)ダビデの逃亡(19:1~24)
4 ダビデとヨナタン(20:1~42)
5 ダビデの逃亡生活(21:1~下1:27)
(1)ノブの祭司アヒメレクのもとで(21:1-10) -
(2)ガトのアキシュのもとで(21:11~16)
(3)アドラムとミッパで(22;I~4)
(4)サウルによるノブの祭司の虐殺(22:5~19)
(5)祭司アビアタル(22:20~23)
(6)ケイラとジフで(23:I~14)
(7)ヨナタンとダビデの契約(23:15~18)
(8)分かれの岩で(23:19~28)
(9)エン・ゲディの洞窟で(24:1~23)
(10)アビガイルとの結婚(25:1~44)
(11)ダビデの訴え(26:1~25)
(12)ガトのアキシュのもとで(27:1~12)
(13)サウル王と口寄せの女(28:I~25)
(14)ペリシテ軍からの離脱(29:1~11)
(15)アマレク追撃(30:1~31)
(16)サウルとヨナタンの戦死(31:1~13)
(17)サウルの死を知ったダビデ(下1:1~16)
(18)ダビデの哀悼の歌(1:17~27)
Ⅳ ダビデ王国(下2章1節~下8章18節)
1 サウル王家とダビデ王家(2:1~4:12)
(1)ユダの王となるダビデ(2:1~7)
(2)イスラエルとユダの戦い(2:8~3:1)
(3)ヘブロンで生まれたダビデの息子ら(3:2~5)
(4)アブネルの離反と死(y6~39)
(5)サウルの子イシュ・ボシェトの死(な1~12)
2 ダビデの統一王国(5:1~8:18)
(1)統一王国と都エルサレム(5:1~12)
(2)エルサレムで生まれたダビデの子ら(5:13~16)
(3)ペリシテ人討伐(5:17~25)
(4)神の箱のエルサレム帰還(6:1~23)
(5)ナタンの預言(7:1~17)
(6)ダビデの祈り(7:18~29)
(7)ダビデの戦果(8:1~14)
(8)ダビデの重臣たちの名簿(8:5~18)
V 王位継承争い(下9章1節~下20章26節)
1 ヨナタンの子メフィボシェト(9:1~13)
2 アンモン、アラムとの戦い(10:卜19)
3 ソロモン誕生(11:1~12:31)
(1) ダビデの姦通とウリヤ殺害(11:1~27)
(2)ナタンの叱責と子供の死(12:1~23)
(3)ソロモンの誕生(12:24~25)
(4)アンモン人の町ラバ征服(12:26~31)
4 王子アムノン(13:1~39)
(1)アムノンとタマル(13:1~22)
(2)アブサロムの復讐(13:23~39)
5 王子アブサロム(14:1~19:9前半)
(1)ダビデのアブサロム赦免(14:1~33)
(2)アブサロムの反逆とダビデの都落ち(15:1~16)
(3)ガト人イタイ(15:17~23)
(4)祭司と神の箱(15:24~29)
(5)アルキ人フシャイ(15:30~37)
(6)メフィボシャトの従者ツィバ(16:1~4)
(7)ゲラの子シムイ(16:5~14)
(8)アヒトフェルとフシャイ(16:15~17:14)
(9)ダビデのヨルダン渡河(17:15~23)
(10)会戦の準備(17:24~18:5)
(11)アゾサロムの死(18:6~19:1)
(12)ダビデを諌めるヨアブ(19:2~9前半)
6 ダビデのエルサレム帰還(19:9後半~44)
(1)ダビデとユダの人々(19:9後半~15)
(2)ヨルダン渡河と人々の出迎え(19:16~31)
(3)ギレアド人バルジライ(19:32~40)
(4)イスラエルとユダ(19:41~44)
7 シェバの反逆(20:1~26)
Ⅳ付録(下21章1節~下24章25節)
1 サウルの子孫の処刑(21:1~14)
2 ペリシテ戦の武勲(21:15~22)
3 ダビデの感謝の歌(22:1~51)
4 ダビデの最後の言葉(23:1~7)
5 ダビデの勇士たち(23:8~39)
6 ダビデの人口調査(24:卜25)
(1)人口調査と主の怒り(24:1~17)
(2)アラウナの麦打ち場の祭壇(24:18~25)
サムエル記上(1 Samuel)は、ヘブライ語聖書(旧約聖書)の歴史書の一部で、イスラエルの歴史における重要な転換期を描いています。サムエル記は、もともと1つの書物でしたが、古代のギリシア語訳聖書(セプトゥアギンタ)でサムエル記上とサムエル記下(2 Samuel)に分割されました。サムエル記上は、以下のような主要な物語を含んでいます。
- サムエルの誕生と奉献: サムエル記上は、預言者サムエルの誕生と、彼が神に奉献される物語から始まります(1 Samuel 1-2)。サムエルの母ハンナは、子供ができなかったため、神に祈り、サムエルが誕生すると約束通り彼を神に奉献します。
- サムエルの召し: 若い頃から、サムエルはエリ祭司のもとで働き、やがて神から預言者として召されるようになります(1 Samuel 3)。彼はイスラエルの民に神の言葉を伝える役割を担います。
- イスラエルの最初の王、サウル: イスラエルの民は、周囲の国々と同じように王を戴きたいと願い、サムエルに頼みます(1 Samuel 8)。神はこの要求を承認し、サムエルはサウルをイスラエルの最初の王として任命します(1 Samuel 9-10)。
- サウル王の失敗: サウル王は神の命令に従わなかったため、神は彼から王位を剥奪することを決定します(1 Samuel 13-15)。代わりに、神は新しい王を選びます。
- ダビデの召しとゴリアテとの戦い: サムエルは神の指示に従い、ベツレヘムでダビデを見つけ、彼に油を注いで次の王に任命します(1 Samuel 16)。ダビデはその後、イスラエル軍と向かい合っていたペリシテ人の巨人ゴリアテを石で打ち倒し、名声を得ます(1 Samuel 17)。
サムエル記上は、イスラエルの歴史における重要な時期を詳細に説明しており、神と人間との関係、リーダーシップ、そして選ばれた者の役割についての教えが含まれています。以下に、さらに詳しい情報を提供します。
- サウル王の失敗とその教訓: サウル王は、神に対する不信仰や不従順さが原因で失敗しました。彼は神の命令に完全に従わず、自らの判断を優先させたことで王位を失いました(1 Samuel 13, 15)。これは、リーダーシップにおいて信仰と従順さがいかに重要であるかを示しています。
- ダビデの信仰と勇敢さ: 若きダビデは、ゴリアテとの戦いで信仰心と勇敢さを示しました(1 Samuel 17)。彼は巨人に立ち向かい、神が彼の側にいることを信じて勝利を収めました。ダビデの信仰心は、神が彼を次の王に選ぶ理由の一つとされています。
- ダビデとジョナタンの友情: サムエル記上では、ダビデとサウル王の息子ジョナタンとの深い友情が描かれています(1 Samuel 18, 20)。彼らは互いに支え合い、忠誠を誓い合いました。ジョナタンはダビデを父サウルの怒りから守るために尽力しました。この友情は、互いを助け合い、愛し合うことの重要性を示しています。
- ダビデの慈悲心と従順さ: サウル王がダビデを追跡する間、ダビデは何度かサウルを討つ機会がありましたが、神の選んだ王であるサウルに手をかけず、彼の命を助けました(1 Samuel 24, 26)。これは、ダビデが神に対する敬虔さと従順さを持っていたことを示しています。
- 神の主権と計画: サムエル記上は、神の主権と計画がイスラエルの歴史を通じて働いていることを示しています。神はサムエルを立て、サウルを王に任命し、そしてサウルの失敗を通じてダビデを新しい王様に立てるのです。
サムエル記上は、イスラエルの歴史の中で神の恵み、指導、そして民の選択にどのように働いているかを示しています。以下に、さらなる洞察を提供します。
- 預言者サムエルの役割: サムエルは神の言葉を伝える役割を果たし、イスラエルの民に道を示しました。彼は国の精神的指導者であり、神の意志を理解し、それを人々に伝える重要な責任を担っていました。これは預言者の役割が神と人々の間でどのように重要であるかを示しています。
- 神の選択に対する人間の反応: サムエル記上では、神の選択に対する人間の反応がさまざまな形で示されています。サウルは神に対して不従順であり、その結果王位を失いました。一方で、ダビデは神に対して信仰心と従順さを示し、神の祝福を受けました。これは、神の選択に対する私たちの反応が神の祝福や審判にどのように影響を与えるかを示しています。
- 権力と誘惑: サウル王は、権力とその誘惑に負け、神の命令から逸脱しました。これは権力が人間の心にどのような影響を与えるかを示し、信仰と従順さがいかに重要であるかを教えてくれます。
- 神の支配と人間の自由意志: サムエル記上は、神の支配と人間の自由意志がどのように相互作用するかを示しています。神はイスラエルの民を導くために王を任命し、人々に祝福を与えますが、同時に彼らに自由意志を与え、神の意志に従うかどうかを選ばせます。
- 救いの予兆: ダビデの召しは、後にメシア(救い主)となるイエス・キリストがダビデの家系から現れる予兆でもあります。ダビデの信仰心と従順さは、後の新約聖書でキリストが描かれる姿にも関連しています。
- 神の忠実さと約束: サムエル記上を通して、神はイスラエルの民に対して忠実であり続け、約束を守ります。ハンナが子供を祈願し、サムエルが誕生したことや、ダビデが王に選ばれたことなど、神の約束が現実になる様子が示されています。
- 祈りの重要性: ハンナの祈りがサムエルの誕生につながり、サムエル自身も祈りを通じて神と対話しました。これは祈りが神との関係を築く上で重要であることを示しています。
- 忍耐と信頼: ダビデはサムエルによって王に選ばれたにもかかわらず、実際に王位につくまでには時間がかかりました。その間、彼はサウル王の迫害に耐え、神を信頼し続けました。これは、神のタイミングと計画に忍耐と信頼を持って従うことの重要性を教えてくれます。
- 寛容と敵への慈悲: ダビデはサウル王に迫害されても、彼を害することを選ばず、寛容で慈悲深い態度を示しました。これは敵に対しても慈悲と寛容を持つことの価値を示しています。
- 悔い改めと赦し: サウルは過ちを犯した後、真摯な悔い改めを示すことができず、結果として神の審判を受けました。これは、悔い改めと赦しの重要性を示しており、後のサムエル記下でダビデが犯した罪の悔い改めの物語と対照的です。
サムエル記上は、イスラエルの歴史の中で神の働きや人間の行動がどのように関係しているかを示す一方で、信仰、従順、悔い改め、祈り、寛容、友情などの普遍的なテーマを提供しています。