1.『申命記』という書名。
(1) ヘブライ語名「エイレ・ハッデバーリーム」(これらは、~言葉です)。
または「ハッデバーリーム」(もろもろの言葉)。
(2) ギリシャ語名「デューテロノミオン」(第二の律法)
→17:8「この律法の写し」を「第二の律法」と誤訳しました。
(3) 邦語聖書「申命記」 申=重ねる、繰り返す、の意。
2.『申命記』の内容
ほぼ全般にわたって、モーセによる律法の説明と説教に終始しています。これまでのイスラエルの歩みを回顧し、民に主の恵みを思い起こさせるものです。特に再び十戒が提示される(5章)。カナンの地へ入って行き占領して住むにあたって、主の定めと掟とをことごとく守り行うべきこと(11:31,32)、その地の神々に従ってはならないことが強調されています(11:16、12:3、29:18、30:17等)。
新しい状況の中で、律法の新しい適用が示され、主がその名を置かれる選ばれた場所での礼拝を命じ(12章)、主の恵みを喜び楽しむべきことが教えられています。
イスラエル人は、自分たちがエジプトの地で、奴隷であったことを忘れてはならない(10:19、16:3,12、23:7、24:18,22)。そのように今日の生活と行いをもって神に仕えることが求められています。
申命記のアウトラインは以下のようになります。
(1) モーセの「言葉」(1:1~4:43)[第一の説教]
[出エジプトの第四十年の十一月一日]ヨルダンの向こうの荒野
① 1:1~3:29 歴史的回顧
神の山ホレブからの旅の途上、主はモーセと共に民の重荷を担うつかさたちを立て
てくださった。民は不信仰の罪を犯し、ヨシュアとカレブ以外は最初の世代の人々は
約束の地に入ることができなくなった。
② 4:1~40 モーセの勧告(1~14)と偶像礼拝に対する警告(15~40)
主の言葉に加減してはならない。主はいつ呼び求めても近くにいてくださる。
心を尽くして求めるなら、主に会うことができる。
③ 4:41~43 逃れの町→民数記35:6,9~15
(2) モーセが示した「律法」(4:44~28:68)[第二の説教]
① 4:44~49 律法のまえがき
② 5:1~7:26 十戒と説教 安息日律法制定の目的に、エジプトの地で奴隷であったこ
とを覚えるべきことが付加される。
③ 8:1~11:25 再度の勧告と回顧
人はパンだけでは生きず、主の口から出るすべての言葉によって生きる。
イスラエルが正しいから土地を得られるのではなく、国々の民が悪いからである。
④ 11:26~32 祝福と呪い
⑤ 12:1~26:19 申命記的律法
礼拝の場所(12:1~14)、犠牲の肉と血(12:15~28)「血は命であり、命を肉と共に食べてはならない」(23)。異教礼拝の禁止(12:29~13:1)、異教礼拝についての警告(13:2~19)
服喪についての禁令(14:1,2)、清い動物と汚れた動物(14:3~21)
収穫の十分の一に関する規定(14:22~29)
七年ごとの負債の免除(15:1~11)、奴隷の解放(15:12~18)、初子の規定(15:19~23)
三大祝祭日(16:1~17)
「男子はすべて、年に三度、すなわち除酵祭、七週祭、仮庵祭に、あなたの神、主の御前、主の選ばれる場所に出ねばならない」(16)。
正しい裁判(16:18~20)、正しい礼拝(16:21~17:7)、上告について(17:8~13)
王に関する規定(17:14~20)
レビ人および祭司に関する規定(18:1~8)
異教の習慣への警告(18:9~14)、
預言者を立てる約束(18:15~22)。
「主はあなたの同胞の中から、わたしのような預言者を立てられる」(15)。
逃れの町(19:1~13)、地境の移動の禁止(19:14)
裁判の証言(19:15~21)
「命には命、目には目、歯には歯、手には手、足には足を報いなければならない」(21)。
戦争について(20:1~20)、野で殺された人(21:1~9)、捕虜の女性との結婚(21:10~14)
長子権について(21:15~17)、反抗する息子(21:18~21)
木にかけられた死体(21:22~23)
「木にかけられた死体は、神に呪われたものだからである」(23)→ガラテヤ3:13
同胞を助けること(22:1~4)
相応しくない服装(22:5)、母鳥と雛鳥(22:6,7)、屋根の欄干(22:8)、混ぜ合わせてはならないもの(22:9~11)、衣服の房(22:12)
処女の証拠(22:13~21)、姦淫について(22:22~23:1)
主の会衆に加わる資格(23:1~9)
「アンモン人とモアブ人は主の会衆に加わることはできない」(4)。
エドム人とエジプト人は三代目には主の会衆に加われる(8,9)。
陣営を清く保つこと(23:10~15)、逃亡奴隷の保護(23:16,17)
神殿での禁止事項(23:18,19)、利子(23:20,21)、誓願(23:22~24)、隣人の畑(23:25,26)
離縁状と再婚(24:1~4)
人道上の定め(24:5~25:4)、死んだ兄弟の名の存続(25:5~10)
争いへの妻の手出し(25:11,12)、正しい秤(25:13~16)
アマレク絶滅の命令(25:17~19)
信仰告白(26:11~15)主の恵みを回顧し、感謝の献げ物をする時の信仰告白
主とその民との誓約(26:16~19)
⑥ 27:1~10 律法についての指示
⑦ 27:11~26 呪いの掟(シケムの十二戒)
⑧ 28:1~68 神の祝福(1~14)と呪い(15~68)
(3) 主の「契約の言葉」(29:1~30:20)[第三の説教]
① 29:1~29 契約と誓いに入るにあたっての勧告
② 30:1~10 再び主に聞き従う者への祝福
③ 30:11~20 イスラエルの選択
申命記は、旧約聖書の五書の中で最後のものであり、モーセの五書(トーラー)とも呼ばれています。申命記は、イスラエルの民がエジプトからの脱出後、約束の地カナンに入る前にモーセが彼らに与えた最後の教えと指示を記録しています。申命記の名前は、ギリシャ語で「第二の法」を意味し、その内容は主に法律と指導、そしてモーセの演説に関するものです。
申命記の主な内容は以下の通りです。
- 回顧と再確認: モーセは、過去40年間の出来事を回顧し、神がイスラエルの民に約束した契約を再確認します。彼は神の法律を再度教え、約束の地に入る前に民に従わせることの重要性を強調します。
- 法律の再提示: 申命記は、イスラエルの民が守るべき神の律法を再提示します。これには、十戒を含む道徳的法律や、宗教的儀式、社会的規範に関する法律が含まれています。
- 神の祝福と呪い: 申命記では、神の律法に従うことによってイスラエルの民が受ける祝福と、不従順な態度や行動によってもたらされる呪いが述べられています。これは、民が神との契約を守ることの重要性を示しています。
- 選ばれた指導者の指示: モーセは、自分の死後、イスラエルの民を導くヨシュアを指名し、彼を神の前で公に指導者として任命します。これは、神がイスラエルの民に常に指導者を与えることを約束していることを示しています。
- モーセの死: 申命記の最後には、モーセがネボ山に登り、神が彼に約束の地を見せる様子が記されています。しかし、モーセはその地に入ることは許されず、山で死にます。彼の後継者としてヨシュアが指導者となり、イスラエルの民をカナンに導きます。
申命記は、イスラエルの民の歴史と神の関与に焦点を当てた重要な書物です。その内容は、以下のような追加の詳細も含んでいます。
- 土地の分配: 申命記では、イスラエルの12の部族が約束の地カナンを分割する方法が説明されています。土地の分配は、神の公正さと慈しみを示すものであり、土地は各部族の大きさや需要に応じて分配されます。
- 城壁の町: 申命記では、イスラエルの土地に設定されるべき6つの「避難都市」について述べられています。これらの都市は、誤って他者を殺してしまった人々が逃れる場所として機能し、復讐を避けることができます。
- 偶像礼拝の禁止: 申命記では、イスラエルの民がカナンの地の異教の神々や偶像を拝むことを厳しく禁じています。神は彼らに唯一神であることを教え、彼らがその信仰を保つことが重要だと強調しています。
- 祭りと儀式: 申命記には、イスラエルの民が守るべき宗教的祭りや儀式が記されています。これらには、過越祭、種無しパンの祭り、七週の祭り、仮庵の祭りなどが含まれます。
- 社会的責任: 申命記では、イスラエルの民が互いに慈悲深く接すること、窮乏者や寡婦、孤児、外国人に対して正義を行使することが求められています。これは、神が彼らに対して示した慈しみと同様に、彼らも他者に対して慈しみを示すことが重要だという教えを示しています。
申命記は、イスラエルの民が約束の地に入る前の重要な時期を扱っており、神の律法や指導、約束に従うことの重要性を強調しています。その内容は、イスラエルの民の信仰と行動に対する神の期待を示し、後のユダヤ教やキリスト教にも大きな影響を与えています。
- 申命記の構成: 申命記は、モーセの3つの演説からなります。第1の演説は、過去の出来事を振り返り、イスラエルの民がどのように神の導きに従ってきたかを説明しています。第2の演説では、モーセが律法を再確認し、イスラエルの民にその律法を守ることの重要性を説く。第3の演説では、モーセがイスラエルの民に神の祝福と呪いを示し、神との契約を遵守することの重要性を強調します。
- 十戒: 申命記は、イスラエルの民に与えられた十戒を再確認しています。これらの戒めは、神との関係と人間同士の関係の両方に関する指針を提供し、道徳的行動を奨励しています。
- モーセの死: 申命記の終わりには、モーセの死が描かれています。モーセはイスラエルの民を約束の地のほとりまで導いたが、自分自身はその地に入ることができませんでした。モーセの死後、ヨシュアが指導者として彼の役割を引き継ぎます。
- ヘブライ語での名前: 申命記は、ヘブライ語で「デバリム」(דְּבָרִים)と呼ばれており、「言葉」を意味します。これは、モーセがイスラエルの民に語った言葉に基づいていることを示しています。
- 申命記の重要性: 申命記は、ユダヤ教のミクラー(聖書)の一部であり、キリスト教の旧約聖書の一部でもあります。その内容は、後世のユダヤ教徒やキリスト教徒にとって道徳的な指針を提供し、信仰生活の基盤となっています。
申命記は、イスラエルの民が神との契約を守り、約束の地で成功するために必要な道徳的指針と価値基準を教えています。
- 選ばれた民: 申命記では、イスラエルの民が神に選ばれた特別な民であることが強調されています。彼らは約束の地を受け継ぐ権利があるため、神の指示に従うことが重要です。
- 神の恵みと審判: 申命記では、神の恵みと審判の両方が強調されています。イスラエルの民が神の律法を守ると、神の祝福がもたらされますが、律法を破ると審判が下されます。これは、神が義であり、人々が遵守すべき正しい道徳的価値観を持っていることを示しています。
- 社会的正義: 申命記は、社会的正義についても重要な指針を提供しています。貧しい人々や寡婦、孤児、外国人に対する支援と寛容が求められており、これらの人々に対する不正行為は厳しく禁じられています。
- 神の唯一性: 申命記の中心的な教えの1つは、神の唯一性です。シェマ・イスラエル(聞け、イスラエル)という有名な聖句(申命記6:4)は、イスラエルの民が唯一の神であるヤハウェを礼拝し、他の神々を拝むことを避けるように求めています。
- 神の律法の重要性: 申命記は、神の律法がイスラエルの民の生活にどれほど重要であるかを示しています。律法を守ることによって、イスラエルの民は神との良好な関係を維持し、約束の地で繁栄することができます。律法は、個人の行動だけでなく、社会全体の秩序と正義にも関連しています。
申命記は、イスラエルの民にとって重要な教えを伝えるために、歴史、法律、道徳的価値観を含む様々な要素を取り入れています。その結果、申命記は、ユダヤ教とキリスト教において、信仰と行動の基盤を築く上で重要な役割を果たしています。
- ユダヤ教の実践: 申命記は、ユダヤ教の実践に大きな影響を与えています。例えば、シェマ・イスラエルは、ユダヤ教徒が日々唱える祈りであり、神との関係を強化する方法として重要視されています。
- キリスト教の教え: キリスト教徒も申命記を重要な聖書の一部として認識しており、その教えはキリスト教の教義や信仰生活に影響を与えています。キリスト教徒は、申命記の律法が新約聖書の教えと関連していると見なし、キリストの教えを理解するための背景知識として申命記を参照します。
- 法律と倫理: 申命記の法律は、西洋法の基礎となるモラルと倫理の原則の多くを提供しています。十戒や他の律法は、個人の権利と責任に関する普遍的な価値観を示しており、これらの価値観は現代の法律制度にも影響を与えています。
- 社会的価値観: 申命記の教えは、社会全体の福祉にも関連しています。社会的正義の重要性や、弱者に対する慈悲や支援が強調されており、これらの価値観は、現代の慈善活動や社会福祉制度にも影響を与えています。
- 神学的影響: 申命記は、神学的な観点からも重要であり、神の性質や人間と神との関係についての理解に寄与しています。神の唯一性、神の義、神の恵みと審判などの概念は、ユダヤ教とキリスト教の神学的思考の基礎となっています。
申命記は、ユダヤ教とキリスト教の信仰と実践に深く根ざした聖書の一部であり、その教えは個人の信仰生活だけでなく、社会、法律、教育、福祉、医療などあらゆる面においてその根本的基盤としての教えを提供しています。