1.『民数記』という書名。

(1) ヘブライ語名「ヴァイッダベール」(さて、彼(主)は言われた)。

または「ベ ミズバル」(荒野で)。

(2) ギリシャ語名「アリスモイ」(数)→ラテン語「ヌメリ」→英語「NUMBERS」

 

2.『民数記』の内容

モーセのもとで神の民として導かれ、訓練されるイスラエルは、神との親しい関係に

入れられながらも罪を犯し続ける。それ故主の裁きを受けるが、しかしなお主の憐れみ

と慈しみをいただいており、神に対して聖なるものとなるように召されている(15:40)。

そのために民の代表として主の前に立つ祭司、レビ人の重要性を示す。

(1) シナイからヨルダン川の東のモアブの平野に至る四十年に及ぶイスラエルの旅。

「あの土地を偵察した四十日という日数に応じて、一日を一年とする四十年間、お前たちの罪を負わねばならない」(14:34)。「イスラエルの人々がエジプトの国を出て第四十年の第五の月の一日であった」(33:38=アロンの死)。

地理的に区分すると三つに分けられる。

①シナイの荒野(1:1~10:10) 出エジプトの翌年二月一日~二十日

②パランの荒野(10:11~21:9) 約38年間 アロンの死まで(20:28=33:38)

③モアブの平野(21:10~36:13)

 

(2) 仲介者としてのモーセの務めと人物

執り成しの祈り(11:2、21:7)。比類のない柔和さ(12:3)。主に与えられた霊により、民の重荷を負う(11:17,25)。主のしもべとして、イスラエルの全かに忠実な者、主が直接語られる者(12:7,8)。

 

(3) 旅の途中で与えられた種々の律法の定め

各氏族の務め(3:21~37、4:1~33)

祭司とレビ人(3:6~13,44~51、5:5~10、8:5~26、17:12~18:32)

姦淫の疑惑を持たれた妻(5:1~31)

ナジル人(6:1~21)

過ぎ越しの祭りの例外的定め(9:1~14)

ラッパの定め(10:1~10)

献げ物の補則(15:1~31)

衣服の房(15:37~41)

清め水の定め(19:1~22)

嗣業の所有地(27:1~11、36:6~9)

献げ物の規定(28~29章)

誓願の規定(30:1~16)

レビ人の町(35:1~8)、逃れの町(35:9~29)

複数の証人(35:30,31)

土地(35:32~34)

アウトラインは以下のようになります。

(1) シナイ出発の準備(1:1~10:11)

[出エジプトの翌年(第2年)の第2の月の一日]シナイの荒野

① 1:1~4:49  人口調査と各部隊の宿営

兵役につける20歳以上の者を部族毎に登録。総計603,550人。レビ人は数えない。

② 5:1~6:27 聖別に関する律法

③ 7:1~10:10 祭壇奉納の献げ物と礼拝儀式

主がレビ人を、イスラエルの人々のすべての長子の代わりとして受け取られる。レビ人はイスラエルの人々に代わって罪の贖いをする。

 

(2) モーセと会衆(10:11~21:35)

[第2の月の二十日]シナイ出発

① 10:11~12:16 モーセと七十人の長老

② 13:1~14:45 カナン偵察と民の反抗

③ 15:1~41 献げ物の律法その他

④ 16:1~19:22 祭司とレビ人

祭司とレビ人以外は主の幕屋に近づけない。アロンとその子孫は献げ物の内、永久に受けるべき分として永遠に変わらぬ塩の契約がある。聖なる献げ物は汚してはならない。

⑤ 20:1~21:35 モアブの野までの出来事

「メリバの水」、カナン人・アモリ人に対する勝利

 

(3)バラムの物語(22:1~24:25)

① 22:1~23:12 バラムの第一の託宣

23:13~26  バラムの第二の託宣

23:27~4:13 バラムの第三の託宣

④ 24:14~25   バラムの最後の託宣

 

(4) 約束の地へ(25:1~33:49)

① 25:1~18 イスラエルの背信

② 26:1~27:11 第二回人口調査とツェロフハドの娘たち

③ 27:12~23 モーセの後継者ヨシュアの任命

④ 28:1~30:16 献げ物と誓願の定め

⑤ 31:1~32:42 分捕り品と土地の分配

⑥ 33:1~49 エジプトからの旅程表

 

(5) カナン定住後の指示(33:50~36:13)

① 33:50~56 カナン入国に当っての命令

石像、彫像を壊し、その地の民を追い払う

② 34:1~29 イスラエルの嗣業の土地と分配

③ 35:1~34 レビ人の町と逃れの町

④ 36:1~13 娘たちの嗣業についての掟

民数記は、旧約聖書の一部であり、モーセ五書(トーラー)の第四巻です。ヘブライ語では「バミッドバール」(בַּמִּדְבָּר)と呼ばれ、これは「荒野で」を意味します。民数記は、イスラエルの民がエジプトを脱出した後、約束の地へ向かう途中で荒野をさまよう40年間の出来事を記録しています。主な内容は以下の通りです。

  1. シナイ山での出来事: 民数記の初めでは、イスラエルの民がシナイ山で神からの指示を受け、神の契約を守る方法を学びます。この時期に、神がイスラエルの民に戦争や宗教的行事に関するさまざまな指示を与えています。
  2. 民の数え上げ: 民数記の名前は、イスラエルの民がシナイ山とモアブの荒野で二度数えられることから来ています。この数え上げは、イスラエルの民がどれだけの数であり、どのように組織されているかを明らかにすることを目的としています。
  3. 40年間の荒野の放浪: 民数記では、イスラエルの民が約束の地へ向かう途中でさまざまな困難に直面し、神の忍耐と導きに頼っています。この放浪の期間中、イスラエルの民は度々不信仰や不服従を示し、神の怒りを招くことがあります。
  4. モーセの指導: 民数記では、モーセがイスラエルの民の指導者として活躍し、神の意志を彼らに伝え、彼らを約束の地へ導く役割を果たしています。しかし、モーセ自身も時々神の命令に従わず、その結果、約束の地に入ることが許されません。
  5. 初代のイスラエルの民の死: 民数記の終わりには、神が初代のイスラエルの民に約束の地に入ることを許さず、彼らが荒野で死ぬことを宣告します。これは、彼らがカデシュ・バルネアでの探検隊の報告を信じず、神に対する不信仰であったためです。しかし、神はその子どもたち、すなわち次世代のイスラエルの民に約束の地への入国を許します。
  1. コラの反乱: 民数記では、コラと彼の一派がモーセとアロンの権威に反抗し、イスラエルの民の指導者になろうとするエピソードが描かれています。しかし、神は彼らの反乱を鎮圧し、コラとその一派を地に呑ませることで、モーセとアロンの指導者としての地位を再確認します。
  2. 神の審判と慈悲: 民数記では、イスラエルの民が神の審判に直面する一方で、神の慈悲も示されています。たとえば、罪を犯した者たちに贖罪の方法が与えられ、民が蛇にかまれたときには、神が真鍮の蛇を作るよう指示して彼らの命を救います。
  3. バラクとバラム: 民数記には、モアブの王バラクが預言者バラムにイスラエルの民を呪わせようとするエピソードが登場します。しかし、神はバラムにイスラエルの民を祝福する言葉を与え、彼がバラクの意図に従うことができないようにします。
  4. イスラエルの民の準備: 民数記の終わりには、イスラエルの民が約束の地に入る準備を整える様子が描かれています。ヨルダン川の東側で部族が土地を分配され、ヨシュアがモーセの後任として指導者に指名されます。
  5. 民数記の重要性: 民数記は、神とイスラエルの民との関係や契約の重要性を強調し、神の律法を守ることが民の成功と繁栄につながることを教えています。また、民数記は、神の義と慈悲がイスラエルの民の歴史と経験と密接に結びついていることを示しています。

これらの点から、民数記はイスラエルの民の信仰と歴史に重要な役割を果たしており、ユダヤ教とキリスト教の信仰において重要なテキストです。

  1. 信仰と信頼: 民数記は、信仰と信頼が神との関係において重要であることを示しています。イスラエルの民は、荒野での40年間の放浪の間に何度も試練に直面し、信仰と信頼を試されます。しかし、彼らが神に従うとき、神は彼らを導き、支えます。
  2. 神の指導と導き: 民数記は、神が自分の民を導く方法を示しています。神は、雲の柱や火の柱を通してイスラエルの民を直接導きます。また、モーセやアロンなどの指導者を通じて彼らに指示を与え、民が正しい道を歩むことができるよう支援します。
  3. 神の約束の確認: 民数記では、神がイスラエルの民に与えた約束が再確認されています。神は、アブラハム、イサク、ヤコブに約束した土地を彼らの子孫に与えることを再度確約します。これは、神が約束を守り、民が従順であれば祝福を与えることを意味します。
  4. 律法と儀式: 民数記では、イスラエルの民が守るべき律法や儀式が詳述されています。これらの規則は、民が神との関係を維持し、約束の地で繁栄するために重要です。律法はまた、民が神の意志に従って生活する方法を示しています。
  5. 民数記の教訓: 民数記は、信仰、従順、神への信頼の重要性を強調する多くの教訓を提供しています。また、神が忍耐強く、民が反抗的で不信仰であっても、神は彼らを愛し、導くことができることを示しています。

民数記は、イスラエルの民の歴史と信仰の中心的な部分を描写し、その物語はユダヤ教とキリスト教の信仰に重要な意味を持ちます。神の導きと慈悲、民の試練と成功、そして神の約束が実現される様子を通じて、民数記は信仰に対する理解を深めることができる重要な聖書の一部です。

  1. 社会的な秩序と組織: 民数記では、イスラエルの民がどのように組織され、荒野を移動する間に秩序を維持するかが説明されています。部族ごとの配置や旗の使い方、レビ人の役割など、これらの詳細は神の民が一つの共同体として機能する方法を示しています。
  2. 贖罪と清めの儀式: 民数記には、罪や汚れからの贖罪と清めの儀式が記述されています。これらの儀式は、イスラエルの民が神との関係を回復し、神に近づくために重要であり、神の律法の一部を構成しています。
  3. 神の忠実さ: 民数記では、イスラエルの民がしばしば不信仰や不服従を示す一方で、神は彼らに対して忠実であることを示しています。神は民に食べ物や水を提供し、彼らを敵から守り、約束の地へと導きます。これは神の恵みと忠実さが彼らの信仰にもかかわらず続くことを示しています。
  4. 神の主権: 民数記は、神が自分の民の上に絶対的な主権を持っていることを強調しています。神はイスラエルの民に対して審判を下すことができ、彼らが神の意志に反して行動するときには罰を与えます。しかし、神はまた、民が従順であるときには祝福と保護を与えます。
  5. 指導者の役割: 民数記では、指導者たちが神の民を導く重要な役割を果たしていることが強調されています。モーセやアロン、ヨシュアなどの指導者は、神からの指示を受け取り、民に伝えることで、イスラエルの民が神の意志に従って行動することができるようにします