1.名称と全体の中での位置 ヘブル語聖書では「王たち」を意味し、もともと単一の書でしたが、現在は第1、第2に分かれている。列王記はイスラエル民族の歴史記述を継ぐ書で、歴史書的性格を持ちつつも、預言書と位置づけられている。これは歴史の中に働かれる神のみわざを意識したためです。
2.著者と年代 ユダヤ教の伝承では著者はエレミヤとされていますが、明確な証拠はありません。列王記の扱う年代はダビデの晩年から約400年間に及ぶ。最終記述はバビロンでのエホヤキンの釈放ですが、これは著者がバビロンにいたことを必ずしも示すものではありません。著者はおそらく王国滅亡前後の預言者か預言者に近い人物でしょう。
著者は古い王宮文書を使い、列王記を約半分に要約しました。それらは公式文書で、王室の記録や宮廷関係者が記録・保存したものです。エリヤとエリシャの記述は王室文書と異なり、預言者集団や民間のものと言えます。著者がどのようにまとめたのかは不明ですが、4百年間をまとめるには編集方針が必要でした。
列王記は南北王国(ユダとイスラエル)の分裂を描写し、ヤロブアムの罪が重要なテーマです。彼の罪は、偶像礼拝の導入や祭司の任命などが含まれます。ヤロブアムの行為は、北王国の存立基盤への不安から来ており、イスラエル人の国としての存立と密接に関わっています。
罪の本質は「主から離れる」ことであり、偶像礼拝が問題とされるのは、神との正しい関係が損なわれることにあります。北王国の王たちも罪により神から離れていったが、一部の王には改革の意図も見られる。しかし、偶像に仕え続ける限り、実質的には状況は変わりません。それでも悪王にも可能性を見出そうとする評価が存在します。
南王国でも偶像礼拝が行われていましたが、北王国ほどひどくはなく、善王の代表とされるヒゼキヤとヨシヤがいました。彼らは偶像礼拝に挑戦し、宗教改革を行いました。評価は、両者の時代や事業の違いを考慮し、最善のことを成し遂げたとされています。南王国はダビデ王国を継承しており、神学的視点で肯定的に評価される。神はダビデ家に免じてユダを滅ぼすことを望まなかったが、最終的には「主から離れる」ことが王国滅亡につながりました。列王記は神の判断が微妙であり、神の言葉としての性格が表現されています。
アウトラインは以下のようになります。
1,ソロモン王国時代(I列1-11章)
(1)晩年のダビデ王と王子らの反乱(11章)
a.老人となったダビデ(1-4)
b.アドニヤの野心(5-10)
c.ナタンとバテ・シェバの反撃(11-31)
d.ダビデの具体的指示(32-40)
e.反乱の終結(41-53)
(2)王位の確立,繁栄,神殿建築(1 2-11章)
a. ソロモン王位の確立(12章)
①ダビデの遺言(1-9)
②確立のための粛正と遺言執行(10-46)
b.判断する心を求める王(13章)
①主への愛と日常生活の罪(1-4)
②主とソロモンの願い事の一致(5-15)
③ソロモンの知恵(16-28)
c.王国の繁栄(14章)
①ソロモン王国の行政体制(1-19)
②ソロモン王治下の繁栄(20-34)
d.神殿建築への準備一王国確立の真の意
味(15章)
e.王国の意味を表す形(16章)
①神殿建築開始と概略(1-10)
②神殿建築中の主の言葉(11-13)
③神殿内部の工事仕様(14-38)
f.人間の知恵の集大成(17章)
①ソロヽモンの宮殿建築(1-12)
②細工師ヒラムの青銅器製作(13-47)
③神殿完成(48-51)
g.神殿奉献式一献身の決意(18章)
①神殿奉献式の準備(1-9)
②主による奉献承認と賛美(10-13)
③神殿建築の趣旨と妥当性(14-21)
④奉献の祈り一約束への確信(22-26)
⑤奉献の祈り一王の願い(27-53)
⑥奉献の祈り一王の祝福(54-61)
⑦奉献のいけにえと祭(62-66)
h.ソロモン王への約束と警告(19章)
①主に受容された神殿と警告(1-9)
②王の他の建築事業と交易(10-28)
iソロモンの名声と実質的繁栄(Ⅰ 10章)
①シェバの女王の驚き(1-13)
②繁栄絶頂の記録の意味(14-29)
jソロモンの罪と主の怒り(IH章)
①晩年の罠一外国の女たち(1-8)
②主の怒りと主の手心(9-13)
③王へのさばき一分裂の預言(14-43)
2,南北分裂王国時代(I列12- Ⅱ列17章)
(1)発展する南北両王国(Ⅰ 12-16章)
a.引き裂かれた王国(Ⅰ 12章)
①労働軽減の請願(1-5)
②最初の判断の誤り(6-:L5)
③北と南への分裂一反乱の成功(16-24)
④ヤロブアムの罪の必然性(25-33)
b.背信への道を走る北王国(1 13章)
①背信体制への最初の神の介入(1-10)
②背信に巻き込まれた神の人(11-34)
c.両王国共通の罪一偶像礼拝(T 14章)
①預言者とヤロブアム(1-5)
②ヤロブアム家の滅亡(6-20)
③レハブアムの素姓と罪(21-31)
d,ダビデに免じて継続する南王国(Ⅰ 15章)
①生き延びたアビヤム(1-8)
②心が主と一つになったアサ(9-24)
③ナダブとバシヤの謀反(25-34)
e.謀反によって継承される北王国(Ⅰ 16章)
①謀反を預言される謀反人(1-7)
②治世2年で殺害されたエラ(8-14)
③7日間の王ジムリ(15-20)
④サマリヤ遷都の王オムリ(21-28)
⑤バアル体制確立のアハブ(29-34)
(2)エリヤとアハブ王(Ⅰ 17-Ⅱ 1章)
a.主の前に立つ預言者(Ⅰ 17章)
①肥沃の神への挑戦と飢饉(1-7)
②肥沃の神のもとでの悲惨(8-16)
③肥沃の神の否定一命の主(17-24)
b.預言者の対決一王の偶像礼拝(1 18章)
①備えーオバデヤの献身(1-15)
②対決の目的–よろめき(16-24)
③答なき対決一血を流す祈り(25-29)
④対決の答一主こそ神です(30-40)
⑤対決の決着一激しい大雨(41-46)
c.主の前に弱り果てた預言者(Ⅰ 19章)
①主よ.もう十分です一恐怖(1-8)
②かすかな細い声 再献身(9-18)
③エリシャを指名 主の召命(19-21)
d.機会を失う背信の王(T20章)
①攻められるアハブ(1-12)
②大勝利を得たアハブ(13-21)
③あわれみ深い王アハブ(22-34)
④アハブヘの断罪(35-43)
e.背信の妻と預言者の間に立つ王(1 21章)
①妻に頼って罪を犯すアハブ(1-16)
②さばきを免れるアハブ(17-29)
f.主の御座に列する預言者たち(1 22章)
①無益な戦いに向かうアハブ(1-4)
②預言者集団に惑わされる者(5-28)
③惑わされる者の死(29-40)
④ヨシャパテとアハズヤ(41-53)
g.最後までかたくなな王(Ⅱ1章)
①イスラエルに神はいないのか(1-8)
②神はいるーあなたは死ぬ(9-18)
(3)エリシャと諸王(Ⅱ 2-13章)
a.エリヤからエリシャヘ(Ⅱ 2章)
①召命を罹認するエリシャ(1-18)
②いやしとすさんだ霊的状況(19-25)
b‥忌むべき宗教に目覚める北王国(Ⅱ 3章)
①3人の王の協力(1-12)
②ユダ王のための勝利(13-27)
c.エリシャによる祝福の活動(Ⅱ 4章)
①貧しい預言者の妻の信仰(1-7)
②裕福な女の信仰(8-37)
③主に養われる預言者集団(38-44)
d.異邦人の信仰と神のしもべの罪(Ⅱ 5章)
①私は神ではない(1-7)
②難しい命令ではない(8-14)
③ほかに神はおられない(15-19)
④今は銀を受ける時ではない(20-27)
e.エリシャを巡る怒り(Ⅱ6章)
①斧の頭の奇蹟(1-7)
②アラム王の怒りと衝撃(8-23)
③王の悲しみと預言者への怒り(24-33)
f.飢饉の中での明暗(n7章)
①主の言葉を信じない侍従(1-2)
②良い知らせを告げるらい病人(3-10)
③疑いを救う1人の家来(n-20)
g.エリシャとアラム王国(H8章)
①エリシャのわざの波紋(1-6)
②ベン・ハダデの暗殺(7-15)
- ユダの王ヨラム(16-24)
④ユダの王アハズヤ(25-29)
h.オムリ王朝からエフー王朝へ(Ⅱ 9章)
①エフーヘの油注ぎ(1-16)
②のろわれた王家の滅亡(17-37)
iエフー王朝のバアルー掃(Ⅱ 10章)
①バアル一掃のための殺害(1-17)
- バアル一掃のための悪巧み(18-27)
- バアル一掃のむなしい結果(28-36)
jアタルヤの反逆と死(Ⅱ章)
①祭司エホヤダのヨアシュ擁立(1-12)
②アタルヤの殺害(13-16)
③ヨアシュの即位(17-21)
k主の宮修理の情熱とその結果(LL2章)
①主の宮修理事業の問題(:L-16)
②謀反によるヨアシュの死(17-21)
1.エリシヤの死(Ⅱ13章)
①エホアハズの嘆願(1-9)
②エリシヤの死とヨアシュ(10-21)
③エホアハズとヨアシュの治世(22-25)
(4)挫折する北王国(Ⅱ14-17章)
a.王の高ぶりと主のあわれみ(Ⅱ14章)
①アマツヤの高ぶり(1-22)
②繁栄の悪王と主のあわれみ(23-29)
b.滅亡へ進む北王国(H15章)
①主への熱心から高慢へ(1-7)
- エフー王朝の最後(8-12)
③アッシリヤヘの朝貢(13-22)
④ぺカフヤ,ぺ力,ホセア(23-31)
⑤ヨタムの治世(32-38)
c.南王国の将来を握るアハズ(Ⅱ16章)
①アハズの治世(1-6)
②大国の圧迫に苦悩するアハズ(7-20)
d.北王国のアッシリヤ捕囚(Ⅱ 17章)
①北王国崩壊(1-6)
②北王国崩壊の理由(7-23)
③北王国崩壊後のイスラエル(24-41)
3.南王国時代(n列18-25章)
(1)復興する南王国(lr 18-20章)
a.信頼に比例する試み(H18章)
①ヒゼキヤヘの賛辞(1-8)
②宗教改革推進の要因(9-12)
③信仰の言葉への挑戦(13-37)
b.ヒゼキヤの苦悩と勝利(Ⅱ19章)
①苦難・懲らしめ・侮辱の日(1-13)
②理想的な祈りの姿勢(14-L9)
③神が神であることの主張(20-37)
c. ヒゼキヤの延命と失態(n20章)
①死に瀕しての信頼(1-11)
②回復後の失態(12-21)
(2)変転する南王国(Ⅱ21-24章)
a.残りの者が捨てられる日(Ⅱ 21章)
①異邦人より悪を行うマナセ(1-18)
②アモンの治世(19-26)
b主の宮への熱き思い(Ⅱ22章)
①主の宮の修理(1-7)
②主の宮での律法の書発見(8-13)
- 主の宮へののろい(14-20)
c前王との落差が示すもの(Ⅱ23章)
①宗教改革の徹底(1-24)
②ヨシヤの評価と死(25-30)
③エホアハズの幽閉と死(31-34)
④エホヤキムの治世(35-37)
d.崩壊路線への突入(Ⅱ24章)
①第1回バビロン捕囚(1-7)
②第2回バビロン捕囚(8-16)
③最後の王の鏝後の反逆(17-20)
(3)消滅する南王国(H25章)
a,第3回バビロン捕囚(1-21)
b.残りの民の最後の反逆(22-26)
c,エホヤキンの釈放(27-30)
列王記上は、旧約聖書の一部であり、イスラエル王国の歴史を記述しています。列王記上と列王記下は、もともと一つの書物として書かれていましたが、後に二つに分けられました。列王記は、イスラエル王国とユダ王国の歴史を扱い、神の民がどのように王たちの指導のもとで行動し、神の律法に従ったか、またはそれから逸脱したかを説明しています。
列王記上の主な内容は以下の通りです。
- ソロモン王の即位:ダビデ王の死後、その子ソロモンが王位を継ぎます。彼は神の知恵を求め、イスラエルを統治することに成功します。
- ソロモンの知恵と富:ソロモンは、神から与えられた知恵によって国内外で評判を高めます。また、彼の時代にイスラエルは繁栄し、富を蓄えます。
- ソロモンの神殿建設:ソロモンはエルサレムに壮麗な神殿を建設し、イスラエルの宗教的中心地として確立します。神殿は神とイスラエル民との関係を象徴し、神の臨在の場となります。
- ソロモンの堕落:しかし、ソロモン王は異邦人の妃たちと結婚し、彼女たちの信仰に影響されて偶像崇拝に走ります。これにより、神の怒りがソロモンに向けられ、王国の分裂が予告されます。
- イスラエル王国とユダ王国の分裂:ソロモンの死後、王国はイスラエル王国(北部10部族)とユダ王国(南部2部族)に分裂します。両国はしばしば争い、時には他の国と同盟を結んで戦争を行います。
- 北イスラエル王国の歴代の王たち:列王記上では、北イスラエル王国の歴代の王たちが紹介されます。彼らの多くは神に背いて偶像崇拝を行い、民を道に迷わせます。
- 神の約束の重要性:列王記上では、神がダビデ王に対して約束を立てる場面が見られます。神はダビデの子孫に永遠の王国を約束し、これが後にイエス・キリストを通じて成就されます。このことは、神の約束が確実であり、信仰者が神を信頼する理由があることを示しています。
- 神の裁きと慈悲:列王記上では、神が罪を犯した王たちや民に対して裁きを下すことが見られます。しかし、悔い改める者には慈悲を示し、赦しを与えます。これは信仰者にとって、神に対する敬意と従順が重要であり、悔い改めることで神の慈悲を受けられることを示しています。
- 預言者の役割:列王記上では、神の預言者が重要な役割を果たします。彼らは、王たちに神の意志を伝え、警告や助言を与えます。このことは、神が民に導きを与えるために預言者を立てることを示しており、信仰者は神の言葉を尊重し、従うことが大切です。
- 偶像崇拝の危険性:列王記上では、偶像崇拝が民の心を神から引き離し、神の怒りを招くことが繰り返し示されています。これは信仰者にとって、偶像崇拝や他の神々への信仰が神との関係を損なうことを警告しています。
これらの教えや洞察は、現代の信者にとっても適用可能であり、神の約束、裁き、慈悲、預言者の役割など、さまざまな面での信仰の成長や深化に役立ちます。列王記上は、神の民が王たちの指導のもとでどのように行動し、神の律法に従ったか、またはそれから逸脱したかを通じて、信仰者が神の意志に従うことの重要性を学ぶことができます。
- 神の摂理:列王記上を通じて、神がイスラエルとユダの両王国の歴史において摂理を行っていることが示されています。神は、国家や個人が直面する試練や困難の中で働き、神の目的が成就されるよう導きます。これは、信者が自分たちの生活や歴史の中で神の摂理を信頼することが重要であることを示しています。
- 忠実な神への奉仕:列王記上では、ダビデやソロモンなどの王たちが、神に対する忠実な奉仕がどのように祝福をもたらすかを示しています。彼らが神に従順である間は、国家は繁栄し、平和がもたらされます。これは、信者にとって、神への忠実な奉仕が神からの祝福と導きにつながることを教えています。
- 神との関係の維持:列王記上では、神との関係を維持することの重要性が強調されています。ソロモンが偶像崇拝に陥ったことで、神の怒りが向けられ、その結果、王国が分裂することになります。信者は、自分たちの信仰生活において、神との関係を大切にし、継続的に神を求めることが重要です。
- 悔い改めと赦し:列王記上では、罪を犯した王たちや民が悔い改めることで神の赦しを受けることが示されています。これは、神が悔い改める者に対して赦しと復元を与えることを示し、信者は悔い改めることが神との関係を回復するために重要であることを学びます。
- 神の主権:列王記上は、イスラエルとユダの両王国の歴史を通して、神が王たちや民を導く主権者であることを示しています。すべての出来事や状況の中で、神は国家の運命を支配し、神の意志に従って物事が遂行されることを保証します。信者は、自分たちの人生や周囲の状況においても、神が主権を持って働いていることを信じることが大切です。
- 権力と誘惑:ソロモン王の例から、権力と誘惑が人々を神から遠ざける危険性が示されています。ソロモンは、偉大な知恵と富を持ちながらも、偶像崇拝に陥り、神の律法を破ります。信者は、権力や誘惑に対して警戒し、常に神を中心に置くことが重要です。
- 神の恵みと忍耐:列王記上では、神が繰り返し民に対して恵みと忍耐を示していることが分かります。民が罪に陥っても、神は彼らに悔い改める機会を与え、神の目的を達成するために彼らと共に働きます。これは信者にとって、神の恵みと忍耐が私たちの失敗を克服し、神の目的を達成する力を持っていることを示しています。
- 社会正義:列王記上では、王たちが貧しい人々や弱者に対してどのように行動したかが記録されています。神は、社会的な公正と弱者の権利を守ることを期待しており、これが国家の繁栄と神の祝福に関係しています。信者は、社会的公正を促進し、弱者を支援することが神の意志にかなっていることを学びます。