詩編について
1.「詩編と賛歌と霊的な歌」(コロサイ3:16)
「キリストの言葉があなたがたのうちに豊かに宿るようにしなさい。知恵を尽くして互いに教え、諭し合い、詩編と賛歌と霊的な歌により、感謝して心から神をほめたたえなさい」(コロサイ書3:16)。=エフェソ5:18
「詩編」 プサルモス(プサッロー)=讃美するという動詞から派生。弦楽器に合わせて歌う。新約ではすべて讃美歌
「賛歌」 ヒュムノス 神を讃美する歌。ヘブライ語テヒーリームの訳語。
「霊的な歌」 オーデー(一般的に歌の意味)・プニューマティコス 聖霊から出た歌。
キリスト教会は、詩編だけを歌うのではなく、信仰に基づく新しい歌を歌って主を讃美してきた(詩編だけでは表現しきれないものがある)
→イエス・キリストという御名、十字架、復活、再臨等の直接的言及。
2.詩編とは何か
(1) 聖書の『詩編』という題
①ヘブライ語聖書『テヒーリーム』=「神を讃美する歌」
英語のPsalmsはギリシャ語「プサルモイ」(弦楽器の伴奏に合わせて歌う歌)に由来する。→ルカ20:42、24:44、使徒1:20、13:33
「祈り」という面もあります。「エッサイの子ダビデの祈りの終り」(詩編72:20)。
②ギリシャ語訳聖書『プサルモイ』=「讃美、弦楽器伴奏付きの歌」
(2) キリストご自身の証言
「わたしについてモーセの律法と預言者の書と詩編に書いてある事柄は、必ずすべて実現する」(ルカ24:44)。
(2) 著名人の言葉
①「信仰の歌、敬虔の響き」(アウグスティヌス『告白』9-4-8)
「信仰の歌であり、傲慢の精神を退ける敬虔のひびきであるダビデの『詩篇』を誦したとき、わたしはあなたにどんな叫びをあげたことだろう」
②「小さな聖書」(ルター『詩篇への序言』)
「詩篇は、キリストの死と復活とをかくもはっきりと約束し、その御国と全キリスト教界の現状と本質とを余示しているほど」
③「魂のあらゆる部分の解剖図」(カルヴァン『詩篇註解』序文より)。
「その中に描写されていない人間の情念は、一つも存在しない」
「詩篇には天的な教説の大部分が含まれている。」
「読者は自らの邪悪さを感得するように鼓舞され、さらにその癒しを求めるように奨められている。」
「祈ろうと努力した人物の姿が示し出されている。」
「一方において肉の弱さが、他方においては信仰の力が示されている。」
3.詩編という書物
(1) 旧約聖書での位置。
ヘブライ語聖書の3区分(律法、預言者、諸書)(→ルカ24:44)の第3部「諸書」の冒頭に置かれている。
①律 法 創世記~申命記
②預言者 1.前の預言者 ヨシュア記、士師記、サムエル記、列王記
2.後の預言者 イザヤ書~マラキ書(ダニエル書を除く)
③諸 書 1.真理 詩編、ヨブ記、箴言
2.巻物 雅歌、ルツ記、哀歌、コヘレト、エステル記
3.ダニエル書、エズラ・ネヘミヤ記、歴代誌
邦訳聖書(キリスト教会の聖書)はそれとは異なる4区分をしている。
①律法(創世記~申命記)、②歴史(ヨシュア記~エステル記)、
③文学(ヨブ記~雅歌)、④預言(イザヤ書~マラキ書)
これは、おおよそキリスト教会が用いたアレクサンドリア・ギリシャ語訳の順序による。キリスト教会はヘブライ語聖書の順序とは異なる独自の原理で聖書を区分してきたといえる。
4.詩編の構成その他
(1) 5巻立ての書物 律法の五巻に対する民の応答
①1~41、②42~47、③73~89、④90~106、⑤107~150
第1、2編は全体の序と見ることができる。
二つのテーマ:律法に示される神の意志と神の王国を築くメシア待望
(2) 神様の呼び名による区別
①「主」 ②「神」『エローヒーム』詩編集(42~83)
(3) 表題
①表題の位置づけ 聖書本文ではないが非常に古くからある。手助け、手引き。表題を印刷しない翻訳聖書もある(NEB)。
②各種表題
作者、用い方・目的・作詩事情、詩の性格(内容)、音楽的符号
表題によってわかるいくつかの詩集
ダビデ集 3~32、34~41、51~65、138~145等
コラの子集 42~49等
アサフ集 73~83
ハレルヤ集 104~106、111~113、146~150等
4.礼拝と詩編
詩編が映し出している背景にある礼拝行為。
呼びかけ、回顧、祈り、讃美 66、68、106
(1) 聖所・神殿で 60:8、108:8、28:2、48:10、65:5、26:6、43:4
(2) 讃美を促す 34、29、33、55、68、95、96、146~150
(3) 会衆・聖徒たちの集い 35:18、40:11、107:32、109:30
(4) 聖歌隊や会衆の合唱 26:12、68:27
(5) 献げ物 66:13、15、27:6、118:24、147:7
5.詩編の信仰
(1) 神の民イスラエルの信仰
天地の創造主、歴史の主、摂理の神。アブラハムの神。
(2) イスラエルの歴史が示す事実。78、105~107
(3) イスラエルの主が、今も祈りを聞いてくださるという確信。
「いつまでですか」(13)、「祈りを聞いてくださる方」(65)
(4) 罪の自覚と告白、信頼。6、32、38、51、102、130、143
(5) 教訓と知恵 49、73、119、139
(6) メシア待望 2、110、132、
詩編の中には神の民として共有できるもの、共感するものがある。それと同時にイスラエルが歴史の中でおかれた特殊な状況もあるので、同じ言葉では祈れないと思うものもある。事情や状況は異なっても、今日も主の民は主を信じ、主に導かれることを確信し、しかも弱さを抱えつつ日々神の前にこの世にあって歩むものである。その点で神と民との関係は変わらない。
詩編は、信仰生活と魂のあらゆる面を映し出しているといわれるが、今日私たちは詩編以外の言葉で祈ることが多い。言葉そのものや歴史の中での事情は違うが、そのような個人と教会に対して、詩編は神への感謝と讃美、どこまでも信頼し、罪のゆるしをいただくことをあきらめない信仰者と神の民の信仰を示している。私たちはそこに、憐れみ深く罪を贖ってくださる神を見出す。
詩編には、神の民として共有できるものや共感できるものがあり、同時にイスラエルが経験した特殊な状況があり、同じ言葉で祈れないこともあります。しかし、今日でも主の民は主を信じ、主に導かれることを確信し、弱さを抱えつつも神の前に歩むことが変わらない。詩編は、信仰生活や魂のありようを映し出しており、私たちは詩編以外の言葉で祈ることが多いが、詩編は神への感謝や讃美、信仰者と神の民の信仰を示し、私たちはそこから憐れみ深く罪を贖ってくださる神を見出すことができます。
詩編(Psalms)は、旧約聖書の中の一部であり、祈りや賛美歌、詩や哀歌などが集められた詩的な文学作品のコレクションです。詩編は全150篇からなり、主にヘブライ語で書かれています。多くの詩編は、イスラエルの王であり詩人でもあったダビデが著したとされており、他にもモーセ、アサフ、コラびと、ソロモンなどが寄稿しています。
詩編は様々な目的やテーマで書かれており、以下のようなカテゴリーに分類されることがあります。
- 賛美歌:神の偉大さやその働きを賛美する詩が含まれます。例えば、詩編8篇や19篇などが該当します。
- 悔い改めの詩:罪を犯した後の悔い改めや、神からの赦しを求める詩が含まれます。例えば、詩編51篇や32篇などが該当します。
- 救いを求める詩:敵や苦難からの救いを神に求める詩が含まれます。例えば、詩編3篇や18篇などが該当します。
- 神の法についての詩:神の律法やその意義を讃える詩が含まれます。例えば、詩編119篇などが該当します。
- 王に関する詩:イスラエルの王やメシア(救世主)についての詩が含まれます。例えば、詩編2篇や72篇などが該当します。
- 哀歌:苦難や悲しみを表現する詩が含まれます。例えば、詩編88篇や22篇などが該当します。
詩編は、神との関係や感情、信仰に対する疑問や葛藤、喜びや感謝など、人間の経験や心情を包括的に描写しています。そのため、詩編は祈りや礼拝、個人的な瞑想の際に読まれることが多く、信仰において励ましや慰めを提供する役割を果たしています。また、詩編は文学的な価値も高く評価されており、現代の詩や歌詩や歌にも影響を与えている詩編は、その美しさと力強さから、多くの人々に愛されています。以下に、詩編のいくつかの側面についてさらに説明します。
- 神の慈しみと忠実さ:詩編では、神の慈しみ(または恵み)と忠実さが度々強調されています。詩編は、神が祈りを聞き、苦難にある人々を救うことを約束しており、信仰の中で、神の存在を確信する力となっています。例えば、詩編23篇や91篇は、神が私たちを守り、導いてくださることを表現しています。
- 詩編の言語と様式:詩編は、繰り返しや対句、シンボリズムなど、詩的な要素が豊富に用いられています。そのため、詩編は、美しくリズミカルな言葉で、神との関係や信仰の葛藤、感謝や慰めを表現しています。
- 瞑想と詩編:詩編は、個人的な瞑想や祈りの時に読むことができます。詩編には、神の愛や御業、律法を瞑想するための素晴らしい範例が含まれており、その言葉を通して、神との関係を深めることができます。
- 詩編とキリスト教:詩編はキリスト教においても重要な役割を果たしています。新約聖書では、詩編が度々引用されており、メシア(イエス・キリスト)の預言として解釈されることがあります。例えば、詩編22篇はキリストの受難として解釈されることがあります。
- 音楽と詩編:詩編は、そのまま歌詞として使用されることが多く、歴史的に教会の礼拝や宗教音楽において中心的な役割を果たしてきました。古代のイスラエルでは、詩編は楽器とともに歌われていました。現代でも、詩編は賛美歌やコンテンポラリー・クリスチャン・ミュージックにおいて引用されたり、インスピレーションとなっています。
- 詩編の影響力:詩編は、西洋文化においても大きな影響力を持っています。その美しい言葉や表現は、詩や文学、音楽、美術、映画など、様々な芸術分野で引用され、インスピレーションとして機能しています。
- 現代の詩編の利用:詩編は今日でも、祈りや瞑想の対象として人々に利用されています。その普遍的なテーマや言葉は、人々の心に響き、慰めや励ましを提供しています。また、詩編は、神との関係を深めるための手段として、個人的な瞑想やグループでの聖書研究に用いられています。
- 詩編の翻訳:詩編は、世界中の多くの言語に翻訳されています。その美しい言葉や表現は、翻訳家たちによって、異なる言語や文化に適応させられています。また、詩編の翻訳は、言語学や文学研究においても興味深い対象となっています。
- 詩編の神学的意義:詩編は、神の性格や働き、神と人間との関係についての理解を深めるための重要な資源です。神学的な観点から見ると、詩編は神の愛、慈しみ、正義、怒り、赦し、救い、御業など、神の多様な側面を示しています。また、詩編は人間の罪、悔い改め、救い、信仰、従順、感謝、喜びなど、神との関係における人間の役割や経験についても教えています。
- 詩編の構造:詩編は、5つの部分に分けられることがあります。これは、モーセの律法の5巻に対応するとされています。各部分は独自の特徴やテーマを持ち、それぞれが締めくくりの賛美歌で終わります。この構造は、詩編が神との契約を反映していることを示唆しています。
- 詩編のジャンル:詩編には、様々なジャンルが存在します。例えば、感謝の詩、叡智の詩、苦難の詩、王の詩などです。これらのジャンルは、詩編が神と人間との関係の多様な面を扱っていることを示しています。
- 詩編における敵:詩編では、敵や悪者が頻繁に登場します。詩編は、信仰を持つ者が悪に対抗する方法や、神が正義をもたらす方法を示しています。これは、人々が悪と戦う上での励ましや指導を提供する目的があるとされています。
- 詩編と祈りの関係:詩編は、祈りの言葉として使用されることが多く、信仰の中で神とのコミュニケーションを支援しています。詩編は、感謝、悔い改め、助けを求める、賛美など、祈りのさまざまな側面を示しており、人々が神との関係を深める手助けをしています。
- 詩編の教訓:詩編は、さまざまな教訓や指導を提供しています。例えば、詩編1篇は、正しい道に従うことの重要性を示しています。また、詩編37篇は、神に信頼を置くことの重要性を強調しています。これらの教訓は、信仰の中での道徳的な指針や態度を形成する助けとなっています。
- 詩編の歴史的背景:詩編は、古代イスラエルの歴史的背景の中で理解されることがあります。例えば、詩編74篇や89篇は、バビロン捕囚時代に関連しているとされています。また、詩編の中には、イスラエルの歴史や文化、宗教的慣習に関する情報が含まれています。これにより、詩編は、古代イスラエルの歴史的状況や社会的背景を理解する上で貴重な資料となっています。
- 詩編の個人的な側面:詩編は、個人の感情や経験を率直に表現することで、読者に共感を呼び起こします。喜びや悲しみ、恐れや疑念など、人間のさまざまな感情が詩編には描かれており、その普遍的なテーマは多くの人々に心に響くものです。
- 詩編の信仰的な側面:詩編は、神への信頼や従順、信仰の強さや弱さなど、信仰生活の中での人間の経験を詳細に描写しています。これにより、詩編は、信仰の中での成長や変化、葛藤や喜びを共有する上で非常に重要な役割を果たしています。
- 詩編の美術への影響:詩編は、絵画や彫刻などの美術作品においてもインスピレーションとなっています。例えば、ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂の天井画やレオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐など、多くの有名な芸術作品が詩編や他の聖書の物語に基づいて制作されています。
- 詩編の研究:聖書学、神学、文学、歴史学などの学術分野では、詩編の研究が盛んに行われています。詩編の成立過程や著者、言語や文学様式、神学的なテーマや歴史的背景など、詩編に関する様々な側面が研究対象となっています。
- 詩編の神聖性:詩編は、ユダヤ教やキリスト教において、神の啓示とされています。詩編が神の言葉として信じられることから、その教えや指針は、信仰の中で非常に重要な位置を占めています。ユダヤ教徒やキリスト教徒は、詩編を通して神の御心や計画を理解し、その指導に従って生きることを求められています。
- 詩編の著者:詩編の著者は複数であり、それぞれが異なる時代や背景から書かれています。伝統的に、ダビデ王が詩編の主要な著者とされており、約半分の詩編が彼の名前で記されています。他の著者には、アサフ、ソロモン、モーセ、エタン、ヘマンなどがいます。
- 詩編の教会での使用:詩編は、教会での礼拝や崇拝の中で頻繁に使用されています。賛美歌や聖歌に編纂された詩編は、礼拝の一部として歌われることがあります。また、詩編は、祈りや黙想の時間に読まれることがあります。
- 詩編の心理的効果:詩編は、人々の心に平和や安らぎをもたらす効果があるとされています。その言葉は、不安や悩みを抱える人々に寄り添い、神の存在や支えを感じさせることがあります。詩編は、人々が心の平和や喜びを得るための手段として、しばしば求められます。
- 詩編の教育的な価値:詩編は、子供や若者に対しても教育的な価値があります。詩編を通じて、神の愛や御業、律法を学ぶことができます。また、詩編の美しい言葉や表現は、言語や文学の習得に役立ちます。
- 詩編の世界的普及:詩編は、世界中の多くの言語に翻訳され、広く普及しています。その普遍的なテーマや言葉は、異なる文化や背景を持つ人々に共感を呼び起こし、人々の心に響くものです。詩編の存在は、世界中の人々が神との関係や信仰の成長を共有し、互いに励まし合うための架け橋となっています。
- 詩編と音楽:詩編は、音楽と密接な関係があります。多くの詩編が、もともと歌や楽器演奏とともに用いられていました。現代でも、詩編は賛美歌や聖歌、ゴスペル音楽、クラシック音楽などの形で、教会やコンサートで演奏されています。詩編は、人々が音楽を通じて神に近づく手段として機能しています。
- 詩編におけるメシアの預言:詩編には、メシアに関する預言が含まれています。これらの預言は、キリスト教ではイエス・キリストがメシアであるとして解釈されます。例えば、詩編22篇はイエスの受難と死に関連付けられ、詩編110篇はイエスの復活や統治に関連付けられています。これらの預言は、キリスト教の信仰の基礎を形成する一部です。
- 詩編とユダヤ教:詩編は、ユダヤ教においても重要な位置を占めています。シナゴーグでの礼拝や家庭での祈りの際に詩編が読まれることがあります。また、詩編は、ユダヤ教徒にとっても神の御心や御業を理解するための重要な資源です。
- 詩編とイスラム教:イスラム教では、詩編はダウード(ダビデ王)に与えられた神の啓示の一部とされています。クルアーンにも詩編に言及されており、ユダヤ教やキリスト教と同様に、イスラム教徒にとっても詩編は重要な宗教文献です。
- 詩編の現代への適用:詩編は、現代の人々にも様々な形で関連しています。詩編の普遍的なテーマや言葉は、現代社会の悩みや問題に対処する上で助けとなります。また、詩編は、人々が自分の感情や経験を理解し、神との関係を深める手助けをしています。