著者については、9:20、32に基づくモルデカイ著者説は、一定の根拠があるものの確定的ではなく、古くからエズラ著者説も存在しています。エステル著者説は見当たりません。著者はペルシャ在住のユダヤ人である可能性が高いです。著作時期はアハシュエロス王の治世終了後で、ヘレニズム時代以前と考えられる。正典性については議論があったものの、最終的には正典と認められました。ヘブライ語本文は良好に保存されているが、ギリシャ語訳の追加部分は第二正典とされており、ユダヤ教やキリスト教会には正典として受け入れられていません。
歴史的背景
エステル記はエズラ記1-6章の後で、エズラ7章以降およびネヘミヤ記に先行します。登場人物のアハシュエロス王以外に確認できる資料や記録はないが、それだけでは史実に基づいた歴史小説であるとは言えません。ペルシャのアハシュエロス王はギリシャの歴史家によってクセルクセス1世として知られており、エステル記以外ではエズラ4:6にしか記載されていません。アハシュエロス王の性格や政治については、ペルシャ王朝の記録が不十分で、ギリシャの史家ヘロドトスの「歴史」が詳細に述べています。
しかし、ヘロドトスによると、クセルクセスの王妃はアメストリスであり、エステル記のワシュティやエステルとは異なります。これについては、研究者が様々な見解を持っています。モルデカイとエステルの名前は、それぞれバビロンの神マルドゥクとパビロンの女神イシュタルに由来するとされています。モルデカイに関しては、同じ時代のシュシャンに高官として存在したマルドゥカという名前の会計官と同一人物である可能性があるとされています。
結論として、エステル記は完全にフィクションとする見解は弱まり、史実を記しているとする主張が認められてきています。
アウトラインは以下のようになります。
1,王妃の交代(1:1-2:23)
(1)王妃ワシュティの失脚(1:1-22)
a.アハシュエロス王の大宴会(1-9)
b.ワシュティの拒絶(10-12)
c.ワシュティの失脚(13-22)
(2)新王妃エステル(2:1-18)
a.王妃選定の計画(1-4)
b.王妃候補者エステル(5-11)
e.王妃選定の準備(12-14)
d.新王妃にエステル(15-18)
(3)モルデカイ,王の生命を助ける(2:19-23)
2,新しい権力者による陰諜(3:1-7:10)
(1)ハマン,ユダヤ人を憎む(3;1~15)
a.ハマンの昇進(1-6)
b.ユダヤ人鎮減の勅令(7-15)
(2)エステルヘの期待(4:1-17)
a.ユダヤ人の悲嘆(1-3)
b、エステルヘの要請(4-17)
(3)エステルの計画(5:1-7:10)
a.エステルの第1の宴会(5:1-8)
b.モルデカイ処刑の叶画(5:9-14)
c.モルデカイ,栄誉を与えられる(6:1-13)
d.エステルの第2の宴会で(6:14-7:10)
①エステルの嘆願(6:14-7;6)
②ハマンの処刑(7:7-10)
3,ユダヤ人の勝利(8:1-10;3)゜
(1)モルデカイの昇進(8:1-2)
(2)ユダヤ人の反撃の許可(8:3-14)
(3)ユダヤ人の喜び(8:15-17)
(4)ユダヤ人の反撃(9:1-16)
(5)プリムの日の制定(9:17-32)
(6)モルデカイの威光(10:1-3)
(2)レビ人の待遇改善(10-・14)
(3)安息日の厳守(15-22)
(4)混宗婚の廃止(23-29)
(5)祭司,レビ人の規定(30-31)
ヘブル語聖書の第3部「詩編」の中で、メギロースと呼ばれる5つの巻物があり、エステル記はその一部で、プリムの祭に朗読されます。エステル記には他の旧約聖書にはない特色がいくつかあり、神名が一度も登場しないことや、女性の名前が書名になっていることなどが挙げられます。新約聖書には引用されておらず、死海文書にも断片が見当たりません。
神名が用いられていない理由として様々な説がありますが、最も正しいとされるのは、神が摂理的に働いていることをより明確に示すためというものです。エステル記は、目に見える神の超自然的な活動だけでなく、日常の生活の中で神が働いていることを示しています。主要人物の評価が大きく変わることが、エステル記の特異な点です。
エステル記は、旧約聖書に含まれる歴史書の一部であり、ユダヤ教徒にとって重要な物語です。エステル記は、紀元前5世紀のペルシャ帝国時代を舞台に、ユダヤ人のエステルがペルシャ王アハシュエロス(またはクセルクセス)の王妃となり、その立場を利用してユダヤ人を滅亡から救う物語が語られています。
物語は以下のような展開を見せます:
- 王妃の選出:ペルシャ王アハシュエロスは、王妃ヴァシュティに対する不満から、新たな王妃を選ぶための美女コンテストを開催します。ユダヤ人のエステルは、養父モルデカイの助言に従い、自分のユダヤ人であることを秘密にして参加します。最終的にエステルは選ばれ、新しい王妃となります。
- ハマンの陰謀:ペルシャ帝国の高官ハマンは、モルデカイが彼に敬礼を拒否したことに腹を立て、ユダヤ人全体に対する報復を企てます。ハマンは王に取り入り、ユダヤ人を皆殺しにする勅令を出させます。
- エステルの勇敢な行動:モルデカイは、エステルに自分の立場を利用してユダヤ人を救うよう頼みます。エステルは王の前でハマンの陰謀を暴露し、結果として王はユダヤ人を救う新たな勅令を出し、ハマンは処刑されます。
- プリムの祝祭:物語の結末で、モルデカイがペルシャ帝国の新たな高官となり、ユダヤ人はハマンの陰謀から救われます。この出来事を記念して、ユダヤ教徒は毎年プリム祭を祝います。
エステル記は、その物語やテーマが現代の読者にもさまざまな教えを提供しています。以下に、エステル記に関するさらなる情報を提供します。
- 女性の力と役割:エステル記は、女性の力と役割に焦点を当てた物語です。エステルは知恵と勇気を持つ主人公であり、困難な状況においても自分の信念に従って行動します。この物語は、女性がどのように力を発揮し、自分の立場を利用して変革を起こすことができるかを示しています。
- 宗教的アイデンティティ:エステルは、ユダヤ人であることを秘密にしてペルシャ宮廷で生活しますが、最終的には自分の宗教的アイデンティティを明かし、ユダヤ人を救います。この物語は、信仰やアイデンティティの重要性を強調し、自分の信念に立ち向かう勇気を持つことの大切さを教えています。
- 神の摂理:エステル記は、神が直接言及されない数少ない聖書の書の一つです。しかし、神の摂理がエステルやモルデカイの行動や状況を通じて暗示されています。この物語は、神が歴史の背後で働いており、人々の運命を導いていることを示唆しています。
- 現代社会への関連性:エステル記は、現代社会においても関連性を持っています。この物語は、差別や迫害に立ち向かい、正義のために行動することの重要性を教えています。また、エステルの勇気や知恵は、現代のリーダーや活動家にとっても参考になる点があります。
- プリム祭:ユダヤ教徒は、エステル記を通じてプリム祭を祝います。プリム祭は、エステルやモルデカイがユダヤ人を救った出来事を記念し、ユダヤ人の生存と繁栄を祝います。この祭りでは、読書、祈り、宴会、贈り物など、さまざまな慣習が行われます。
エステル記は、神を信じて生きるというその普遍的なテーマや教えによって、多くの人々に影響を与えています。以下に、エステル記が他の分野でどのように関連性を持っているかについて説明します。
- 芸術と文学:エステル記は、美術や文学においても大きな影響を与えてきました。画家たちは、エステルの勇敢さやハマンの処刑といったエピソードを描いています。また、詩人や作家たちは、エステル記の物語や登場人物を題材にした作品を生み出しています。
- 哲学と倫理学:エステル記は、哲学や倫理学の分野での議論の対象となっています。物語が扱う正義や勇気、信仰などのテーマは、倫理的価値観や道徳的行動の基礎を形成する要素であり、エステル記が提供する教えは、これらの議論に大きな影響を与えています。
- 社会学と政治学:エステル記は、社会学や政治学の観点からも分析されています。物語は、権力や階級、民族間の関係など、社会的な側面を描写しています。また、エステルがどのようにして自分の立場を利用して変革を起こしたかという点は、現代の社会運動や政治的行動においても参考になる要素があります。
- 宗教間の対話:エステル記は、宗教間の対話や協力のための共通の基盤となることができます。エステル記は、ユダヤ教徒だけでなく、キリスト教徒にとっても重要なテキストであり、両宗教の信者が信仰やアイデンティティの問題に対して共通の理解を持つことを助けます。
エステル記が提供する教えや洞察は、様々な形で私たちの日常生活に応用することができます。以下に、エステル記の教えをどのように現代の状況に適用できるかについていくつかの例を挙げます。
- リーダーシップ:エステルは、リーダーシップの良い例とされています。彼女は自分の立場を利用して困難な状況に立ち向かい、勇敢に行動しました。現代のリーダーたちは、エステルの姿勢から学び、困難な状況においても決断力を持ち、信念に基づいて行動することが重要であることを理解できます。
- 社会正義:エステル記は、社会正義を求める人々にとってもインスピレーションを与えています。エステルは、ユダヤ人を救うために自分の立場を利用しました。これは、現代の活動家や社会運動に携わる人々にとって、差別や不正を克服するために自分の力をどのように活用できるかを示しています。
- コミュニケーション:エステルは、王との間に効果的なコミュニケーションを築くことで、ユダヤ人を救うことができました。この物語は、現代の人々にとっても、コミュニケーションが重要であることを教えています。効果的なコミュニケーションを通じて、他者との理解や協力を深めることができます。
- アイデンティティと誇り:エステルは、自分のユダヤ人としてのアイデンティティを受け入れ、それを誇りに思いました。この物語は、現代の人々に対しても、自分のアイデンティティや信仰を大切にし、それを誇りに思うことの重要性を教えています。
- メンターシップと信頼関係:エステルとモルデカイの信頼関係は、メンターシップや信頼関係の重要性を示しています。現代の人々は、この物語から学び、神が働いておられることを信じ、神により頼みつつ他者と信頼関係を築くことが、困難な状況を乗り越えるカギになることを忘れてはなりません。
- 忍耐とタイミング:エステルは王に対して、ハマンの陰謀を適切なタイミングで告げることで、ユダヤ人を救うことができました。この物語は、忍耐とタイミングの重要性を教えており、現代の人々にとっても、適切なタイミングを見極めることが重要であることを示唆しています。
- 寛容と多様性:エステル記は、異なる文化や宗教の間で共存することの重要性を示しています。物語は、寛容と多様性が社会の発展にとって重要であることを教えており、現代社会においても、異なる背景や信仰を持つ人々が共存し、互いに理解し合うことが大切であることを示しています。
- 勇気と信仰:エステルは、自分の信仰と勇気を持って行動しました。この物語は、困難な状況においても信仰と勇気を持つことの重要性を教えており、現代の人々にとっても、自分の信念に基づいて行動することが大切であることを示しています。
- 個人の影響力:エステル記は、個人が持つ影響力についての教えを提供しています。エステルは、自分の立場を利用して大きな変革を起こしました。これは、現代の人々にとっても、自分の立場や能力を活用して社会に影響を与えることが可能であることを示しています。
- 神の存在と信頼:エステル記では、神が直接言及されていないにもかかわらず、物語全体を通じて神の摂理が働いていることが示唆されています。これは、神への信頼が不可欠であることを教えており、現代の信者にとっても、困難な状況においても神を信頼し続けることが教えられています。