1。『士師記』という書物

1)ヘブライ語名「ショフェティーム」(「ショーフェート」の複数形)

=治めること、裁くこと

2)ギリシヤ語名「クリタイ」(裁判官たち)

3)「士師」は漢語に由来(裁判官、司法官)

「士師」には救助者としての働きが帰されている(2:16,183:9,15,31)。

4)他の聖書箇所での言及

「士師が世を治めていたころ」(ルツ1:1)、「わたしの民イスラエルの上に士師を立てたころから」(サムエル下7:11、歴代上17:10)、「士師たちがイスラエルを治めていた時代からこの方」(列王下23:22)。

5)著者

ユダヤ教の伝承ではサムエル。鏝終的な著者は王制を知っており(17:618:119:121:25)、「その地の民が捕囚とされる日まで」(18:30)、「神殿がシロにあった間」(18:31)よりも後の人。「捕囚とされる日」はいつか。アッシリア王ティグラトピレセルの侵略(列王下15:29=B..734年)か、北王国陥落(B..722年)か。

ヨシュアの死後、エレアザル、ピネハスによって完成されたと考えられています。

士師記の構成と内容は次の通りです。

  1. 序文(1章~3章6節):先住民残留の神学的説明。
  2. 士師たちの働き(3章7節~16章)。
  3. 付録(17~21章):ダン族とベニヤミン族の物語。

ヨシュアはイスラエルに主を愛し、律法を守り、カナンの神々に仕えないよう戒めましたが、イスラエルは従わず、主に背いた。主が救助者として士師たちを遣わし、敵から救い出す様子が描かれています。ヨシュア記はヨシュアを中心に征服が強調されているのに対し、士師記は個々の部族の戦いに焦点が当てられています。

士師記の主な特徴は以下の通りです。

  1. 士師たちの物語には、英雄物語のような武勇伝(大士師)と、名簿のような短い記述形式(小士師)があります。これらは記述形式の違いによる区別で、全体で12人の士師たちが12部族を代表しています。
  2. 士師たちの時代は、外敵による支配と士師による統治の年数を合計すると410年です。ただし、士師たちの統治年数を単純に合計するだけでは正確な算出はできません。士師たちの時代は一般に紀元前13世紀後半から11世紀にかけてとされています。
  3. 様々な形の伝承と記録があり、デボラの歌やヨタムの寓話、サムソンの謎かけなどが含まれています。また、地名や故事なども記されています。

『士師記』の内容の概略

1)序論I カナン征服の概観(1:1~36

1:1~21 南の諸部族  ユダ、シメオン、ベニヤミン

第一に攻め上るべき部族はユダ。山地を手に入れたが、平地の民は戦車を持っていたので、追い出せなかった。

1:22~36 北の諸部族

ヨセフ一族・マナセ・エフライム、ゼブルン、アセル、ナフタリ、ダン

各部族とも占領住民を追い出せずに共存し、強制労働に服させた民もあった。

2)序論H 士師時代の概観(2:1~3:6

2:1~5 主の使いの宣告

イスラエルは「カナン住民と契約を結んではならず、その祭壇を壊さねばならない」という契約を破ったゆえにその地の住民と神々が罠となる。

2:6~10 ヨシュアの死と新世代

2:11~15 新世代の背信

  • 2:16~3:6 先住民残留の神学的説明

主は、イスラエルが先祖たちの守ったように主の道を守ってそれに歩むかどうかを試みるために、また戦争を知らぬものに教えるためにカナンの民を残しておかれた(2:22~3:1)。

 3)士師たちの働き(3:7~16:31

クシヤン・リシュアタイムの下に 8年(3:8

3:7~11 オトニェル  40年(3:11

カレブの弟。主の霊によってイスラエルを裁いた。

3:12~30 エフド   80年(3:30

3:31   シヤムガル

カナンの王ヤビンの下に20年(4:3

4:1~5:31 デボラ

女預言者デボラとバラク(4:1~10)、シセラの逃亡とヤビンの滅亡(4:11~24)、

デボラの歌(5:1~31)4章の出来事の詩的表現

ミディアン人の下に 7年(6:1

6:1~9:57 ギデオン 40年(8:28

10:1~2 トラ    23年(10②

10:3~5 ヤイル   22年(10:3

ペリシテ人とアンモン人の下に18年(10:8

10:6~12:7 エフタ 6年(12:7

12:8~10 イブツァン 7年(12:10

12:11~12 エロン 10年(12:11

12:13~15 アブドン 8年(12:14

ペリシテ人の下に40年(13:1

13:1~16:31 サムソン 20年(15:20

(4)付録(17:1~21:25)

 17:1~18:31ダン族の移動

19:1~21:25ベニヤミン族

士師記は、ヘブライ聖書(旧約聖書)の一部であり、歴史書の一つです。イスラエルの歴史において、ヨシュアが約束の地カナンを征服した後、サウル王が即位するまでの期間を扱っています。この時代は、イスラエルの12部族が連邦制によって統治されていた時期であり、士師と呼ばれる指導者たちが時折現れて民を敵から救い出す役割を果たしていました。

士師記は、この時代の士師たちの活躍を描いており、主な士師には、ギデオン、サムソン、デボラ、バラク、エフタなどがいます。彼らは、イスラエルの民が神の掟を破ったり、偶像崇拝に走ったときに神の怒りを受け、外敵に攻撃されると、神によって遣わされた士師たちが、民を敵から救出し、平和を取り戻す役割を果たしていました。

士師記は、神が民に忠実であり続けることを強調しており、人々が神に従順である限り、神は彼らを救い出し、祝福することを伝えています。一方で、民が神を忘れたり、偶像崇拝に走ったりすると、神の懲罰を受けることも描かれています。この繰り返しの中で、イスラエルの民は神との関係の重要性と、彼らが選ばれた民であることを再認識することが期待されていました。

士師記は、イスラエルの歴史を通して、神の恵みと懲罰が繰り返される様子を示す物語を提供しています。士師たちは、神が民を外敵から救うために遣わした指導者であり、彼らの勇気と信仰によってイスラエルの民はたびたび解放されました。以下は、士師記で描かれているいくつかの重要なエピソードです。

  1. デボラとバラク:デボラは女性の預言者であり、士師の一人です。彼女は、イスラエルの民がカナン人に圧迫されていた時に、バラクを指導し、カナン軍を打ち破るための戦いに導きました。彼らの勝利は、神の力と導きによるものであり、デボラはその後、平和をもたらす士師として民に尊敬されました。
  2. ギデオン:ギデオンは、ミディアン人による圧迫からイスラエルの民を救った士師です。神は彼に、わずか300人の兵士で大軍を打ち破る方法を示しました。ギデオンは神の指示に従い、ミディアン軍を撃破しました。この勝利は、イスラエルの民が神に信頼することの重要性を示すものでした。
  3. サムソン:サムソンは非常に強力な士師で、その力は神によって与えられました。彼はフィリスティ人との戦いで多くの勝利を収めましたが、彼の弱点は女性でした。デリラという女性によって裏切られ、その力を失い、捕らえられます。しかし最後の瞬間に、神に祈り、再び力を取り戻し、フィリスティ人の神殿を倒して自らと敵を共に滅ぼしました。
  1. イェフタ:イェフタは、アンモン人との戦いでイスラエルを勝利に導いた士師でした。彼は神に誓いを立て、戦いに勝利すれば、戦いから帰るときに最初に家を出てくる者を神に捧げると誓いました。しかし、勝利後、最初に出てきたのは彼の一人娘でした。イェフタは、この悲劇的な結果に直面し、誓いを果たすことを余儀なくされました。
  2. ミカの家の偶像:士師記では、イスラエルの民が度々偶像崇拝に陥ることが語られています。ミカという男が、彫像を作り、自分の家で偽の神々を崇拝する場面が描かれています。このエピソードは、偶像崇拝が神との関係を破壊し、民の信仰を弱めることを示しています。
  3. レビ人のコンキュビン:士師記の最後の方で、レビ人のコンキュビンという悲劇的な物語が語られています。彼女は、レビ人の夫に虐待され、死んでしまいます。彼女の死は、イスラエルの各部族が戦争を繰り広げる大きな争いの引き金となりました。このエピソードは、イスラエルの民が神から離れると、道徳的にも社会的にも崩壊していくことを示しています。
  1. 道徳的指針の喪失:士師記の物語は、イスラエルの民が神の教えを忘れ、道徳的指針を失って混乱と不和に陥る様子を示しています。この状況は、現代の読者にも共感を呼び、信仰を持ち続けることの重要性を再認識させます。
  2. 信仰の中での勇気:士師たちは、神の助けを信じて勇敢に立ち向かった人々です。彼らの信仰と行動によって、度重なる試練にもかかわらず、神が民を救い出すことができました。現代の読者は、信仰を持ち続けることが勇気と力を与え、困難な状況を乗り越えることができることを学びます。
  3. 神の恵みと忍耐:士師記では、イスラエルの民がたびたび神を裏切るにもかかわらず、神は彼らに対して恵みと忍耐を示しています。神は、民が罪を悔い改めることを願い、新たな指導者を立てて彼らを助けます。このことから、神は慈悲深く、私たちの過ちを許すことを望んでいるというメッセージが伝わります。

士師記の物語は、イスラエルの民が神から離れると、道徳的にも社会的にも崩壊していくことを示しています。しかし、神は民が悔い改め、信仰を回復することを望んでおり、そのために士師たちを立てて彼らを助けることを選んでいます。士師記は、信仰の営みと神との関係がいかに重要であるかを示しており、現代の読者にもその重要性を教えてくれる一冊となっています。